2/3 「で、いつから真ちゃんと付き合ってんの?」 「…」
大事件です。ミッションB、失敗。昼休み、高尾くんにちょっと来て〜なんて軽い感じで呼ばれてひょこひょこ着いてった。誰もいない裏庭のベンチに座った高尾くんは空いたスペースをポンポン叩いて、私はそこに腰をおろした。そして屈託のない笑顔で放たれたのが冒頭のセリフである。
「え〜たまたま会って帰ろうかってなっただけだよ〜」 「え、それイケると思ってる?」 「チッ…ダメか」 「真ちゃんの態度見てりゃ分かる。何年真ちゃんの相方やってると思ってんだよ!」
今年の春会ったばっかじゃん。私の方が付き合い長いし。高尾くんが嬉々として語る話を聞くと、練習が終わってからの緑間くんはしきりに時計を気にして鼻の下を伸ばし、そわそわしているらしい。…そんなの見たことないけど。 それから先輩への挨拶もそこそこに、決まって図書室に向かう。結果、追うしかない!…にたどりついたとか。昨日の高尾くんはどうしても尾行したい気分だったそうだ。「図書室での会話から本屋出て帰るところまでもうバッチリ!」
手を望遠鏡に見立てて目に当てた高尾くんがじっと私を見てきたので、その望遠鏡に指を二本突き立ててやった。
「うわ、あっぶね!」
間一髪避けた高尾くんに舌打ちをして、さてどうしようかと膝に頬杖をついた。
「あ、別に知ったからどうこうしようなんて思ってねぇよ?ただ純粋に面白いだけ!」 「そっちのがタチ悪いわ!」 「ってのは冗談で〜。なまえちゃん、今まで誰にも相談とか出来なかっただろうしあんな変人が彼氏だと何かと大変だと思ってさ。オレで良ければ話聞くからよっ!」 「た、高尾くん…!」
あなたは天使ですか?なんで緑間くんはこんないい人に黙ってたんだ!私がそんな美味しい話を逃すわけもなく、その日から頻繁に電話やメールでやりとりをするようになった。高尾くんは学校の誰にも私達が付き合ってる事をバラすことはなかったし、緑間くんにも私達がこんなやりとりをしてることは秘密にしてくれてる。本当にいい人です、高尾くん…!今日も電話をかけると快く話を聞いてくれた。
「だからなんで学校では秘密なのか、後ろからしか抱き締めてくれないのか分かんないんだよね」 「真ちゃんはなまえちゃんが自分みたいに変人扱いされたら嫌だからって言ってたけど?後ろから抱き締める理由は、前からだと可愛い顔が見えないからだって。愛されてるね〜」 「え、そうなの…?うわ…めちゃくちゃ恥ずかしい…」 「ごちそうさまですー、真ちゃんは真ちゃんで考えてるみたいだから多めに見てやってよ」 「うん、ありがと…ってちょっと待った!なんで高尾くんがそんなこと知ってるの!?」 「あぁ、真ちゃんにも同じようにあの日の事話したから。ま、真ちゃんはなまえちゃんがオレとこんなことしてるなんて知らないから安心しろよ」 「浮気してるみたいな言い方やめて!」 「あはは!」
機械の向こうで腹を抱えて笑い転げているであろう高尾くんが容易に想像出来て、携帯を真っ二つにしそうになった。前言撤回、高尾くんは天使じゃなくて悪魔でした。
「でも、さっき言ってたことはマジだから。真ちゃんほんとになまえちゃんの事好きみたいだし、これまでみたいに恋愛相談はオレにってことで。ウチのエース様のわがままに付き合ってやってよ」
な?と言われて、電話だから見えないのにコクンと首を縦に振った。
―――――――
「悪い、遅くなった」 「ううん、部活お疲れ様!」 「あぁ」
今日も人気のない図書室で、後ろから腕を回される。いつもみたいに腕に手を添え、すっかり暗くなった外を見ていると気が済んだのかふっと肩が軽くなった。
「帰るぞ」 「あ、ちょっと待って」 「なんだ?」
カバンを掴みかけた緑間くんの腕をとって自分に向かい合わせる。マネキンみたいに突っ立ってる緑間くんを思いきり正面から抱き締めた。
「なっ、どうしたのだよ!?」
慌てた雰囲気の緑間くんを可愛く思いながら、長身の彼をめいっぱい首を後ろに反らせて見上げた。
「これなら顔、ちゃんと見えるよね?」 「!…高尾だな」 「さぁ?」
ニヤリと笑って小首を傾げると「高尾みたいな顔をするな」だって。あんな意地悪な顔真似しても出来ません。
「前からもいいでしょ?」 「そうだな…」
頭にふわりと置かれた手が髪を撫でて頬を滑り顎を掴んだ。今の状態でもかなりキツいのに喉が突っ張るくらい顎を持ち上げられて、グッと背中を丸めた緑間くんと唇が触れ合った。
「こちらの方がキスしやすくて助かる」 「…っけほ。やっぱ首つらいから後ろからでいいかな」 「遠慮するな」 「してません!」
緑と秘匿
(変人扱いされてもいいから付き合ってること言っていい?) (高尾、そんなことまで…) (てかそういう扱いなのは心得てるんだね) (…)
→あとがき |