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あぁ、今日もか。


「なまえ…」
「緑間くん…」


ありなんだけど、毎回ともなるとやっぱなし。


「帰るぞ」
「…うん」


抱き締められる時、いつも正面に誰もいないなんて。


「いつも通り本屋で待っている」
「はーい」


いつも緑間くんは後ろからしか抱き締めてくれない。私は壁や本棚をボーっと見つめ、首に回ってきた腕を優しく掴むだけ。腕時計を確認すると、緑間くんがこの図書室から出て行って3分が経った。私は適当に選んで広げていた本を閉じ、元の位置に戻して誰もいない図書室の鍵を閉める。

高校に入って初めて図書委員を務めることになった。それで分かったのは、ほとんど誰も使ってないのと年中室温が丁度いいこと、特に本に興味はない。じゃあなぜ?という質問にはこう答える他ない。緑間くんに命令されたから。中学時から付き合っている私に、卒業式で告げられた言葉は衝撃的だった。

“高校の誰にも付き合っていることを知られたくない”

どういうことでしょうか。お前みたいな女を彼女と紹介するのは気が引けるのだよ。とでも言いたいんですか。なんて思ったけど、元が変人だし、彼には彼なりの考えがあるのだろうと黙って頷いた。高校に入って、高尾くんというクラスメートができ、皆から近寄りがたいと言われる緑間くんと唯一仲良さげに話す人物。誰にも分け隔てなく接する高尾くんは緑間くんのぼっちフラグをへし折った崇高なるお方だ。そこで一度こんなやり取りをした。


「高尾くんになら付き合ってること言ってもいいよね?」
「高尾にだけはダメなのだよ」


じゃあ他の人ならいいのか、とか屁理屈言うと機嫌を損ねるから言わなかったけど。おかげで私は誰にも恋の相談など出来ない。学校でまともに会話をするのもこの図書室だけで、それも誰もいない時のみ。部活後に本を返すことを口実にやってくる緑間くんを待ち、さっきみたいに後ろからぎゅっと抱き締められて、彼が出た3分後、図書室を閉め職員室に鍵を返し帰宅する。これが私の日課だ。


「あっ緑間くん、今帰り?」
「そうだが」
「じゃあ途中まで一緒に帰ろー」
「仕方ないのだよ」


今日はミッションBの日。“帰宅途中本屋に寄ったら偶然クラスメートと遭遇!同じ方向なら一緒にどう?パターン”だ。緑間くん曰く、これでもし本屋に誰かいたとしても不自然ではないし帰り道を誰かに見られても翌日焦らず対応出来る…そうです。でも、緑間くんは重要なことをいろいろ忘れてる。私は学校で緑間くんを他の女子と一緒に変人扱いして避けてることとか、今時高校生が「え〜たまたま会って帰ろうかってなっただけだよ〜」なんて甘っちょろい嘘を信じてくれないこととか。


 
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テーマ「人外ファンタジー」
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