2/3 「どうした、どかないのか?」
どけるわけないだろうこの確信犯がああああ!!!と叫びたい気持ちを抑え、口を固く結んだ。
「言えない理由はなんだ。見られると叶わなくなるからか、それとも“僕”だから見られたくないのか…」 「両方…です」 「そう」
ひとこと、短くつぶやいて赤司くんはなんの躊躇いもなくカバーを引っこ抜いた。
「あっ!」
私の奪い返そうとした手を簡単に避けて自分の頭上に持って行き、それを見上げた。
「赤司くんの彼女になりたい、か…」
顔は天井を向いたまま目だけでこちらを見た赤司くんに言い知れない妖艶さを感じる。なんてかましてる暇はない。こうなったらもう当たって砕けろ!勢いで告白するしかない!!
「実は」 「そのお願い、変更を推奨するよ」
“ずっと前から好きでした”と続ける暇もなく、ガツンと鈍器で殴られたような感覚に陥った。きっと今、ひどい顔してる。 推奨って、何。要するに叶う見込みのない願いなんか悲しいだけだからやめろって?そういうこと?いやそりゃ確かに赤司くんと付き合えるとかそんな大それたことは思ってないけどさ、自分からこの事態引き起こしてこんなフり方ありですか。笑えてくるわ。すとんと赤司くんの膝から降りてなんとか笑顔をつくる。
「あーうん、なんかごめん」 「別に謝る必要はないが。はい、新しく書き換えておいたよ」 「え?」
ひゅっと投げられた消しゴムをキャッチして、視線を下ろすと、私の願いは二重線で消されていた。裏返すと白かったはずのそこに達筆な文字が並んでいた。
“僕と結婚”
「…は?」 「成功が明白な願いなどなんの意味も持たない。僕となまえが惹かれあい結ばれるのは当然のことだ」 「な、に言ってんの?偶然クラスが一緒になって偶然何回か日直することになっただけで赤司くんが私を好きになるなんてそんな…」 「偶然?はは、おかしなことを言うな」 「ま、さか」 「さぁ、仕事を片付けてしまおうか」 「ええっ」 「ああそうだ。なまえ」
再び机に向かった赤司くんの手招きに従い寄ると、後頭部を掴み引っ張られてお辞儀をした格好になる。その先には赤司くんの顔があって、唇同士が静かに触れた。
「…やっとできた」
ふわりと、見たことない顔で赤司くんがほほ笑んだけど、私はバカみたいにポカンとしてただただ消しゴムを握りしめていた。
赤い意図
(新しい願いは良いけどこれ赤司くんが書いたし使い切らずに見られたし効果なくないですか) (そんなモノに頼らずとも結婚するから問題ない) (なんで書いたの!?)
→あとがき |