不憫な男 [ 1/2 ]


「赤司様の言うことは〜?」
「「「「ぜったぁ〜い!!」」」」
「僕に逆らうやつは〜?」
「「「「オヤ☆コロ〜!!」」」」
「(カ・イ・カ・ン!!)」











「とか合コンでやってたら面白くない!?」
「名っおまっそれ…ギャハハハ」


狭い部室で腹を抱えてベンチを転げ回る青峰。


「青峰君、笑いすぎです…っ」
「なんだよテツだって笑い堪えてるじゃねぇかよぉ!!!」


なんとか平静を装うが肩がガタガタを震わせている黒子。


「それにしても名ちんえげつないこと考えるね〜、赤ちんにバレたら殺されるんじゃない?」
「大丈夫、大丈夫!その時は取って置きの作戦使うからさ♪」
「へぇ〜そんなのあるんだ、気になる〜」


どこから出してきたのか、モグモグとお菓子を食べる紫原。


「…オヤ☆コロとはなんだ」
「「「「…………え」」」」
「…………」


爪の手入れをしつつ、何なんだこいつらという目を向けているのは緑間。


「真ちゃん…嘘でしょ…」
「お前まさかオヤ☆コロを知らねぇってのか」
「緑間君、君って人は…!」
「ミドちん…」
「「「「空気読めよ」」」」
「だからいったいなんなのだよ!!!」


こいつ本気で言ってんのかと笑い転げてた青峰までが真剣な顔で固まる。


「重要なことなのか?」
「ねぇ、真ちゃん。オヤ☆コロって略語なの、なんの略語だと思う…?」


真剣な顔をして近づいてい来た名に、緑間も真面目に考え、答えを出した。


「ハッ!…まさか…」


閃いた緑間の言葉の先が早く聞きたくて、皆うんうんと頷く。


「おやつコロッケ…?」
「お…おや…おやつコロッケって…」
「?」


静まり返ったあと、部室の屋根が吹き飛ぶ勢いで爆笑が起こった。


「いだだだだ!お腹!お腹が!笑いすぎて痛い…!!!」
「ぐふっ…み、緑間っお前たまにはいいこと言うな!」


皆が床や壁を叩いて爆笑していたところで、部室のドアが開いた。


「皆どうしたんスか?外まで笑い声が丸聞こえッスよ」
「あっ涼ちゃん…ぐふっ…いいところに来てくれ…った」
「名っちまで…ほんとどうしたんスか!それでなんで緑間っちだけ不機嫌なんスか…」

「知らん!」
「あぁ、真ちゃんはいいの!ちょっと拗ねてるだけだから」
「…おい」


緑間の呼び掛けも虚しく、名は話を続ける。


「てか、ちょっと聞いてよ!真ちゃんね、オヤ☆コロ知らなかったんだって」
「えぇ!?」
「(…そんなに有名なのか)」
「そんでね、じゃあなんだと思うって聞いたらね…ふっ…聞いたら…っ!」
「なんなんスか!早く教えて下さいッス!!」
「お、おやつコロッケって…っまた思い出し笑いが…っ」


それを聞いた黄瀬は、チラリと緑間を見る。するとバツが悪そうにメガネの位置を直していた。 いつも堂々としている緑間が小さくなっているのを見て思いっきり笑いが込み上げてきた。


「ちょっえぇ…ぷっアーッハハハハハ!」
「黄瀬…お前まで…」
「えっじゃあなんすか!“僕に逆らうやつは…おやつコロッケ!”ってことっすか!?いやーそれはさすがにやばすぎでしょ!そりゃ笑うッスね!アハハハハハ」
「…………」
「ハハハ…って…あれ皆?」


部室を見回すと皆うつむいたりスクワットをしたりそれぞれのことをしている。


「…涼太、なんだか楽しそうだね?」
「!?」


背後からの声に背筋が凍る。


「そんなに楽しい話なら、僕にも教えてくれないかな?」


部室の入口に立っていたのは、外光でシルエットのみだが、部室内にいた誰もがその存在の正体を分かっていた。


「赤司っち…?」
「え、あの…俺は今来たばっかりで…ねっ皆!」
「そうなの?名」


名前を呼ばれビクッとしたが、焦りを見せず慎重に言葉を紡いだ。


「なんか、来て急に“俺面白い事言った!”みたいな感じで、一人で、笑い出して、私は、よくわかんないな、みたいな感じで」
「名っち…嘘っスよね?嘘だと言って…」
「んだよ黄瀬。名が嘘ついてるってのか?」
「名さんは本当のことしか言ってません」
「紫原からのあだ名ちんは悪くないよ」
「そんなぁ…3人まで…」


皆の思わぬ裏切りに、黄瀬がガクガクと震え出す。最後の頼みとばかりにギギギと緑間の方に視線を移す。


「…俺は何も知らん」


黄瀬が人生が終わることを覚悟した瞬間であった。


「それじゃあ僕と涼太は今日別メニューだから、皆はいつものメニューを頼むよ」


にこやかにそう言った赤司に対して、皆は静かに頷くしかなかった。

“黄瀬…グッドラック…”

そう想いを込めて。


「ちょっ、まっ、それは無理…ぎょえああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ…」


段々と小さくなる声に、多少の罪悪感は感じたが、このあとの練習に向け切り替えにかかる。


「あ、そだ紫原からのあだ名ちーん。取って置きの作戦ってなんだったの」
「…涼ちゃんいっつもいいタイミングで来るからさ、そうなればと思ったんだけど…」
「今回のはさすがにタイミング良すぎましたね」
「…そうだな」
「とにかく」










「不憫な男」


(あ、言い忘れてたけど)
(((((!?)))))
(全員メニュー3倍だから)
((((さんっ!!))))
(私はセーフ…)
(別に名もサポートだけじゃなく練習に付き合ってくれていいからね?)
(は…はい…)

20120728 →あとがき
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -