あけましておめでとう [ 1/1 ]
「さっさむぅっ…!」
「そんな短いスカートをはくからだ」
「…だって、赤司くんが喜ぶと思ったんだもん」
「どういうことだ?」
「青峰くんが男で嫌いな奴はいねぇ!ってだから赤司くんも好きかなぁと」
「…バカ言ってないで早く行くよ」
人混みの中に私を置き去りにして、赤司くんは勝手にぐんぐん進んでいってしまう。このままじゃ迷子になる!と焦ったけど、暗闇でもよく映える赤い髪は探さなくても視界に食い込んでくる。年の瀬だというのに神社には人が押し寄せて、私はゆっくり流れる波に身を任せていた。
「…?」
今、何かお尻に当たった…?これだけ人が密集してるんだからカバンや腕が当たってもおかしくないけど。それにしても、何度もお尻に何かが当たる感覚は気持ちいいとは言えない。
「あか…」
「おいおいどこ行くんだ?」
前方に見える赤司くんに追い付こうと、体を縦にして人の間を抜けようとしたが後ろ手を掴まれて戻された。耳元で囁かれた声は荒い息づかいで呼吸に添って首に息が当たる。
気持ち悪い…!
「こんな短いスカートはいて…誘ってんだろ?ん?」
「そん、なわけないでしょ!誰がお前なんか」
「おー威勢がいいなぁ。もっと激しい方が好きか?」
「っ…!」
後ろにピタリとくっついたそいつは、自分の体で隠しながら大胆にも私のお尻をまさぐってきた。全身を寒気と吐き気が襲って、思わずうつむいて口を押さえる。寒さとは別の何かで体が震えるが、なんとか顔を上げ目立つはずの赤い髪を探すが、捉えられない。
まさか、はぐれた!?このタイミングで…?嘘でしょ…
唯一の希望も奪われて、さっと血の気が引いた。
「一緒にいた男ならどっか行ったぜ?邪魔者を消す手間が省けて助かったわ」
やっぱりこんなスカートなんか履いてくるんじゃなかった…!赤司くんにちょっとでも可愛いと思って欲しくてした恰好なのに赤司くんは反応薄いし変なのはひっかかるしはぐれるし最悪だ…。
「赤司、くん…ごめっ」
「君が謝る必要はない」
「!?」
「お前…い゙あぁっ!?」
「口を挟んですまないが、邪魔者はお前だ」
「赤司くん…!」
ぎゅっと目を瞑って、まぶたに浮かんだ呆れ顔の赤司くんに謝ると同時に前から誰かに抱き締められた。ふわりと鼻を掠めた香りに何故か肩の力が抜けて安心してしまう。赤司くんだと分かった時には手の感触は消えていて、苦しい体勢ではあるけど首だけ回して後ろを見ると赤司くんが男の手を捻り上げていた。周りは私達に左右少しずつ距離を空け変わらずに進んでいる。道のど真ん中で立ち止まってただならぬ雰囲気を出す私達は注目の的だ。男が何度か離せと叫んだのが聞こえたのを最後に、赤司くんは私の頭を肩に押し付けるようにして二の腕と手のひらで私の耳をふさいだ。
「離せてめぇ!」
「…次にこいつの前に現れたら、僕は君を殺すかもしれない」
「っ!?くそっ…」
それが開放されたら男はいなくなってて、赤司くんは何事もなかったみたいに「だいぶ遅れてしまったな」と言ってもう一度人の流れに溶け込んだ。
「赤司くん、どうしてあんなに離れてたのに私を見つられたの?」
「見つけられたも何も、僕は一度も名を見失ってはいないよ」
「えぇ!?赤司くん後ろに目でもついてるの!?」
「…あぁ」
「今説明めんどくさくて嘘ついたでしょ!」
「あぁ」
「否定しないんだ…」
後ろを確認している様子はなかった、なんで分かったんだろう。私なんて前方にいたはずの赤司くんすら見失ってしまったのに。赤司くんが全然人にぶつかったりしないことにも関係があるのかな?…こんなこといくら考えたって答えは出ないのだけれど。
「こんなことになるなんて…もうこのスカート絶対やめよう」
「…はかないのか?」
「え、うん…赤司くんあんま反応良くなかったから意味ないしねー」
「そんなことはない、目線に困るくらいには興奮してる」
「こ…!?」
真顔でなんてことを言うんだ…周りに人がいっぱいいるのに大丈夫ですかこの人。
「赤司くんも男の子なんだね!ミニスカにドキドキするなんて」
「別にそのスカートにではないよ、着用しているのが名だから興奮している」
「わあああああ恥ずかしいからやめてぇぇぇぇ」
ニヤリと笑う赤司くんは誰がどう見ても故意犯。私が顔を真っ赤にしてあたふたするのを楽しんでいるんだ。いつもいいようにしてやられる…来年は必ず一泡吹かせてやる…!拳を握ったと同時にゴーンと地響きのように除夜の鐘鐘が鳴り響いた。煩悩まみれの私からそれを取り除くことなんて出来る気がしないから、逆に煩悩を爆発させてみようと思う。
「赤司くん、あけましておめでとう」
「おめで…っ!」
“…とう”と言おうとこちらを向いた赤司くんの唇を奪ってやった。瞬きもせず開いたままの大きな瞳に意地悪く笑う私が映る。しめしめ、してやったり!これは新年早々いいスタートを切れたな。ふっふっふーと上機嫌な私はわざとらしく「ん〜?赤司くんどうかした〜?」なんて調子のってみたけどすぐに後悔した。
「まあ今年も、…んむぅ!」
頭を抱き抱えられて、本格的な食べられるようなキスに目を見開いてしまった。鼻の先で伏せられた長い睫毛が官能的で、人前だというのにそれに酔いしれてる自分が嫌になる。
「僕を驚かせるならこれくらいしてくれないと。…じゃあ改めて」
「あけましておめでとう」
(今年もよろしく頼むよ)
(…絶対今年中にぎゃふんと言わせる)
(ぎゃふん)
(くっ…腹立つ!)
20130101