女の敵! [ 3/5 ]


青峰はコート脇のベンチに座り、名と少年たちがバスケを楽しんでいるのを見つめていた。


「ねぇ、お姉ちゃん!」
「なあに?」
「おっきくなったら僕と結婚して!」
「へ?」
「!?(結婚だと…!あんのませガキ…)」
「んーそうだな、大きくなってまだ私のこと覚えてて、もし再会したらしようか!」
「ほんと?」
「うん!ちゃんとイイ男に育つんだぞー!」
「よし!まずはあのお兄ちゃんみたいにバスケ上手くなる!」
「…そだね!頑張れ少年!」


その男の子はボールを持って青峰のところに走り出す。


「お兄ちゃん!」
「あ?」
「バスケ教えて!」
「…しゃーねーなァ」
「やったー」
「ただし、」
「?」
「あいつと結婚するってのは諦めろ」
「なんで?」
「なんでだと思う」
「…お兄ちゃんもお姉ちゃんのことが好きなの?」
「どうだろうな?」


ニヤリと笑った青峰を見て、少年は何かを感じとったようだ。


「そっか、分かった」
「お、えらく聞き分けがいいな」
「だって、お姉ちゃんもお兄ちゃんの事好きな気がするもん」
「!このっませガキがー!」
「うわぁっやめてよぉ!アハハ」
「オラオラオラ!」


少年の頭をぐしゃぐしゃとかき回す青峰を見て、バスケをやっていた少年の1人が叫んだ。


「あーお兄ちゃんがたっくんいじめてるー!」
「ほんとだー!」
「あー青峰のやつ、いーけないんだーいけないんだー!
よーし、皆でお兄ちゃんのこといじめてやれぇ!!」


わーっと一気に少年たちは青峰に群がりベンチが揺れるほど盛り上がっている。それを見た名が


「いつもそんな風にしてたら皆怖がらないのに」


なんて呟いていたことは誰も知らない。


「いやーっ楽しかったなー!バスケなんて授業でしかやったことないけど意外と出来るもんだね」
「小学生相手にボロカスにやられてたやつが何言ってんだ貧乳」
「だから最後のは余計だ」
「もう危ないマネすんじゃねぇぞ。見てるこっちがヒヤヒヤするぜ」


はぁっとため息をつき、こんなことがずっと続
いたら心臓持たねぇと心の中で付け足した。


「危ないマネ?」
「…啖呵きったろうが。それと、なにしてもいいとか」
「あれは、まぁ、ね」
「なんであんなこと言ったんだ。お前のことだ、どうせああいうやつら許せなくてカッとなったとか言うんだろ。そのすぐ熱くなる性格やめろよな」
「それもあるけど、青峰がいたから」
「は…」
「青峰がいたからさ、なんとかなると思ったんだよ。他でもないバスケのことだし余計にね!」
「は、はあ?俺が助けなかったらどうするつもりだったんだよ」
「助けるよ、青峰は。信じてたもん」
「…!…………自意識貧乳過剰女」
「真ん中に紛れこませるな。…いや、その前後も私的には許せないけど…まぁ今回はそう言われてもしょうがないか」



アハハと笑う名を本当に反省しているのかと顔を見れば、いつもより暗い笑顔のような気がして、心の中では反省しているのだと気づく。


「わっ!どしたの?」


立ち止まった青峰が名の腕を掴む。その表情はうつむいていて読めない。


「青峰…?」


覗きこもうとした時、ふと青峰が顔を上げた。今までに見たことがないほど真剣な表情で…射抜かれてしまいそうな鋭い視線に目がそらせない。


「俺、ずっと」
「?」
「ずっと…」
「あれぇ?大輝じゃん?」
「「はっ?」」


急な場違いすぎる声に二人揃って同じ反応をした。


「えと…誰?」
「あ、いやこいつは」
「えーてか何ー?これ大輝のイマカノなわけー?超胸ないじゃん?」
「なっ」
「大輝“巨乳じゃねぇと付き合えねぇ”とか言ってたのに乗り換えたのー?あ、もしかして“遊びなら貧乳でも考えてやるか”って言ってたの実行してる系?てかさー私たちやり直そうよー!お前の巨乳サイコーって言ってくれたじゃん?あたしー結構大輝の好きなんだよねー…え、何この空気。超冷たくない?」
「……」
「あ、あのよぉ貧乳…これは昔のことであって今は全然」
「え、大輝こいつのこと貧乳って呼んでんの?超うけるー!」
「…………」
「あ、いや、その」
「金輪際話しかけてこないで」
「あっ待て…」


とっさに名の腕を掴む。


「腕、離して」


言われた通り腕を離す。最後に見えたのは涙の雫が地面にポトリと落ちたところ。どんどん遠ざかる名と動かない足。

追いかけなければ泣かしたどうするのが最善かなんでこいつがバスケ楽しかったな何がダメだったあいつ走ってるな遠くなるじゃますんな何が起きてるあいつはイチゴロ〜ルパンが好きなんだ雫で地面の色が変わったなにしてだ俺今日は堀北マイちゃんのドラマだ俺は立ってるのか?座ってるのか?

一瞬で脳内を駆け巡るなんの脈絡も持たない内容たち。今も隣で“ヨリヲモドソウマエミタイニタノシモウ”と囁かれる言葉など、最早青峰には言葉として認識されていなかった。
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