女の敵! [ 1/5 ]
「おい貧乳!」
…こいつ……
「…ぁ、あーおーみーねぇぇえええ!!その呼び方やめろって何回言ったら分かるのよ!?」
「あ?貧乳に貧乳っつって何が悪いんだよ貧乳」
「な!?さ、3回も…」
「じゃぁな、貧・乳」
「ちょっと!」
貧乳を連発した本人の青峰は、悪びれる様子もなく笑いながら去っていった。…ここは全学年が揃っている昼休みの食堂だというのに…!!怒りと「残念ですけど私巨乳なんでさーせん」と言い返してやれない控え目な胸へのむなしさが募る中、また始まった、という誰かの声で我にかえった。…これが漫画でよくある“クスクス”ってやつか。
「皆ごめん、私今日別のとこで食べてくる」
「…一緒に行こうか?」
「ううん、大丈夫!今日の定食楽しみにしてたんでしょ?気にせず行った行ったー。…それに、ちょっと1人になりたいし」
「そっか」
「一緒に食べたかったのにな」
「…分かった、食べたらすぐ教室戻っとくから恥ずかしがらずに帰ってくるんだよー」
「はーいありがとう」
いつも食事を共にしている友達と別れ、向かうのは屋上。あそこなら誰もいない。ギィ…と、重い鉄の扉を出て裏に回り、壁を背もたれに床に座った。
「大声であんな言い合いしたの聞かれて、堂々とご飯なんか食べられないよ…皆と定食食べたかったなー…あ゛ーーー!!あの巨乳バカめ!」
「誰がバカだコラ!」
「いたっ…あぉみねぇっ!?」
パシッと上から落ちてきた何かが頭にあたって反射的に首が沈む。
見上げると、顔を出してこちらを睨んでいる男が一人。
「な、ななな何でそんなところいるの」
「俺ァいつもここで飯食ってんだよ。お前が勝手に来たんだろうが」
「…そ、そうですか。それよりアホ峰くん」
「殺すぞ」
「これはなんですか」
先ほど頭に当たり、そのあと足に乗ったものをつまみ上げる。
「見りゃ分かんだろ?パンだ」
「いや、パンだけどさ。これ好きなの?」
パッケージには《女性に大人気!あま〜いイチゴたっぷりのロ〜ルパン♪》の文字。
「んな甘いもん食えっかよ…やる」
「え?」
「なんも食ってねぇんだろ」
「そうだけど…」
“何ゆえ私の好きなパンが?何ゆえここにあるの?”そんな疑問を投げ掛けようとしたが、青峰なら“文句があんなら捨てろ”とでも言いかねない、そう思って言葉を飲み込むことにした。
「じゃあありがたく、いただきまー…」
袋を開け、中身を出したところで、手を止めた。
「んだよ」
「食べよう」
青峰を笑顔で見上げた。
「青峰もまだだったらさ、一緒に食べようよ」
「…」
早く、と自分の横のスペースをポンポンと叩いた。大きな影が出来たと思った時には床から伝わる衝撃と同時に、青峰が飛び降りていた。
微かな風が通り抜ける。
「おーさすが、運動神経がよろしいことで」
「うっせ」
二人並んでご飯を食べながら進む、他愛ない話を楽しいと感じる。パンはいつの間にか食べ終わっていた。
「あ、もう授業始まる!そだ!今日の放課後空いてる?」
「なんだよ急に」
「いいから!」
「…空いてるけどよ」
「よし。私行きたいところあるんだ、付き合って!」
「いつもつるんでるやつ連れてけよ」
「青峰と行きたいの。ちゃんと予定空けといてね、じゃ後で」
「行くって言ってねぇぞ」
「パン美味しかった、ありがとー」
手を振って足早にその場を去る。
「…簡単に男誘ってんじゃねーよバカ貧乳」