嫌なやつ [ 3/3 ]


「てか、えっなんなの?流れについていけてないんですけど…結局緑間は何が言いたいわけ?」


一人でメラメラと怒りの炎を燃え上がらせている目の前の男は、それを聞いてしゅぅ〜と消火されたように一気に静かになった。


「おは朝の占いは毎日チェックをかかさない」
「へー」
「俺は人事を尽くしている」
「はー」
「だから俺のシュートは落ちん」
「へー」
「好きだ」
「ほー」
「名が好きだ」
「ふーんんんん!!??いいいい今なんと!?」


またいつもの緑間教のお話が始まった、と適当に返事をしていたら聞きなれない言葉が耳に入って何度も頭の中で繰り返された。


「お前の耳はいったいどうなってるんだ。それとも聞こえているのに理解出来ないバカなのか」
「はいぃ!?なにこれ、ほんとなにこれどういう状況!?私どうしたらいいのさ!?」
「お前も言えばいいのだよ」
「は!?なんて!」
「俺が好きだと」
「は…い?」


今日の緑間はおかしい。心の底から病院行け!と叫びたくなるばかりだ。


「…てか、なに、え、好きってもしてかして、私に告白してるんです、か」
「それ以外の何があると言うのだよ」
「いやそれにしてはムードというか…雰囲気おかしくないですか」
「お前が、ムード(笑)」
「(笑)ってなによ!私だって一応乙女なんだよチクショー」


大げさに泣き真似をしてみせるが、緑間は腕を組んで鼻で笑いやがった。これが告白したやつの態度か!告白…し…た…

急に“告白”という自分の中で結構壮大なイベントの真っ最中だったのを思い出し、顔に一瞬熱が集まった。


「と、ととっトリアエズ、時間モアレナンデ帰リマショウ、ハハ…」


こんな訳の分からない告白なんてドラマでも見たことがない。とにかくこのパニックから抜け出して落ち着くためには、一刻も早く帰るしかない!

そう思いぎこちなく足を踏み出したが、不意に肩と背中に圧迫感を感じて、緑間に後ろから抱き締められたんだと気づいた。ドサッと手から滑り落ちたカバンにも気づかないほど私は驚いてしまったようだ。


「みっ、緑…間っ?」


目の端に緑色の髪が見える。肩に額をつけていて表情が分からなくて、動かないし喋らない緑間に不安を感じて後ろを見ようと目線をやったら、肩にメガネのフレームが当たってカチャンと音を立てて下に落ちた。


「あ、ごめ」
「…いい。それより、まだ返事を聞いていない」


肩を掴まれてぐるりと回され緑間と至近距離で向かい合った。身長の高い緑間の顔を見上げると、初めてガラス越しではなく直接見る長い睫毛を改めて羨ましく思う冷静な自分と、不覚にも、端整な顔に見つめられドキリと胸を高鳴らせてしまう自分がいた。


「…え、と」
「早く言え」
「うっ、そんな、急に言われてすぐに無理」
「何故だ」
「なっ何故だって…」
「お前も好きだと言えばいい」
「えっ拒否権は!?」
「ない」
「…」
「早くしろ」
「もうそれ言う意味ないんじゃ…」


答えを急かされて、目を見ると中に赤くなった自分の顔が映っていた。それが余計恥ずかしさを加速させて、パッと顔を伏せて緑間の制服の端をきゅっと握った。


「〜〜〜〜っ好き」
「顔をあげろ」
「…………やだ」


頭の上で、クスッと、緑間の笑う。しょうがないやつだ、と聞こえた気がした。それと同時に顎に手を置かれ、ゆっくりと上を向かされた。普段、めったに表情を変えない緑間が、優しく、微笑んでいた。


「…何が可笑しいのよ」
「もう黙れ」


だんだんと緑間の顔が近づいてきて、きゅっと目をつぶった。ふにっと唇に柔らかい感触がして、すぐになくなった。目を開けると鼻が触れるくらいの位置に緑間がいて、何故かそれがすごく心地好くて、このまま離れたくなくて。


私がもう一度小さく“好き”とつぶやくと“知っている”と余裕そうな笑みで返された。


「…………やっぱ」










「嫌なやつ」


(あ、メガネ…はい)
(あぁ。今はいい)
(なんで?)
(キスには邪魔だ)
(ここ学校って分かってる!?)

20120812
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