嫌なやつ [ 2/3 ]


「お、真ちゃん自主練終了?」
「高尾…まだいたのか」
「今終わったとこ!さっさと着替えて帰ろうぜー」


緑間が部室に入ると、今しがた帰ってきたらしい高尾が自分のロッカーから荷物を取り出し、着替え始めた。


「あ、そういやお前名ちゃんどうしたんだよ」
「体育館の片付けを…」
「おまっ一日付き合わせて更に片付けまでってどんな鬼だよ…」
「なっ!鬼とはなんだ鬼とは!」


緑間を視線の端に捉えつつ、高尾は脱いだ練習着をバッグにしまう。


「なぁ、真ちゃんさーいつになったら告んの」
「…………は?」


急な問いかけに緑間は動きを止めて、高尾を見る。その高尾はいつもの様な何かを企んでいる顔ではなく、真剣だ。


「な、何なのだよ急に。俺は別に名のことなど…!」
「あれぇ〜?俺“名ちゃん”なんて一言も言ってないんだけど〜?」
「!」


今度はニヤついた顔でわざとらしく頭をかしげた。
「それが本心ってことだろ?」
「いやっ…違っこれは」
「ふーん…じゃぁ名ちゃん、俺がもらっていい?」
「なっ!?」
「正直可愛いし、性格いいし、最近仲も良い感じだし?イケると思うんだよなー」
「…」
「ここだけの話、名ちゃんモテるから早く告らないと誰かに取られそうだし」
「…」


黙っている緑間を見ると、何かを必死に悩んでいるようだった。


「(あと一押し必要か…)」


何かないかと考えを巡らせ、そういえば…と以前言われた言葉を思い出す。


「それに俺、名ちゃんに好きって言われた事あるんだよなー」


それを聞いた瞬間、緑間は自分の荷物をひっつかみ部室から飛び出して行った。


「おーおー目の色変えちゃって…やっとこれで無事にくっつきそうだな。俺ってばチョー優し♪」


荷物を肩にかけ部室を出てカギをしめる。ふと体育館の方を見ると、名の腕を掴む緑間がおり、自然と口元が緩んだ。両手でカメラのように四角を作り、そこに二人収めた。


「真ちゃん風に言うと、二人は最初からこうなる運命なのだよ!なーんてな♪」


聞き耳を立てて明日からそれをネタにするのもいいけど、今日のところは帰りますかー!

明日から二人がどう変わるのか、ワクワクしながら帰路についた。





─────ガシッ


「ひょぇわぁああっ!?…ってなんだ緑間?ビックリさせないでよ!幽霊でも出たのかと…って、どうしたのそんな息切らして…」


片付けや戸締まりも終わり、体育館正面入口のカギを閉めようとした時、急に腕を掴まれた。緑間は肩で息をしながらいつものようにメガネの位置を直した。掴まれた腕はまだそのままだ。


「何?忘れ物?それならカギまだ閉めてないから「お前」…?」


なんでしょうか、と緑間の方に体を向け次の言葉を待つ。言いにくいことなのだろうか。口を開いては、何かを考えるように閉じ、また開いては険しい表情をし閉じる。


「ほんとどしたの…」
「た」
「た?」
「たっ、高尾に好きだと言ったのか!」


なんとも複雑な表情をして私の答えを待つ緑間に、なんだそんなことかとでも言わんばかりに即答した。
「え、言ったけど」
「!」


答えを聞いた緑間が目を見開いたと同時に腕に感じていた圧迫感が強くなった。


「っいた…いよ、緑間っ」


緑間の腕に空いている手を乗せると、ハッと我にかえったように腕を離して小さく“すまない”と言われた。掴まれていた腕には赤く跡が残っていて、なんだか熱い。


「何故俺じゃなくてあいつなのだよ…」
「?何なの?ほんと意味分からんぞこの下まつげ…」
「いつから好きだったんだ」
「え?…んー…初めて会った時から印象良かったよ?ふざけてるように見えるけど人の細かい心情の変化とかに気づいたりとか、いつも(緑間に罵られても)前向きで(緑間が意味不明な発言しても)楽しそうで、(緑間を受け入れて仲良く出来る)大人なところとかすごいとなって思う」


笑顔でそう言うと、さびしそうな顔をされた。


「…そう、か。じゃあ高尾と付き合うのか」





「えっ」
「えっ」


緑間のあまりにも予想外の問いに、完全にフリーズした。私と高尾くんが付き合う?


「なんでそうなるのさ」
「たった今高尾が好きだと…」
「…あのさ、なんか勘違いしてるみたいなので一つ言わせて頂きたいんですけれども」
「なんだ」
「高尾くんが好きって…“友達として”なんだけど…」
「…」
「…」
「…たぁかぁおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


神様。緑間くんから、ハンパじゃないどす黒いオーラが見えるのは気のせいでしょうか…
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