腹…黒い…? [ 3/4 ]


「ん…」
「おはよ」
「…おはよう」


目が覚めると、黄瀬くんは私を見つめ髪を撫でていた。頭がガンガンする…昨日のは本当にあったことなんだ…。この甘い雰囲気に流されてしまいそうで、そっと逃げるように起き上がってベッドの縁に腰をかけた。


「調子、どうスか」
「だいぶ良くなった。ごめんね迷惑かけて、帰るね」
「待って」


頭を抱えながら、立ち上がると、足が思ったより痛くない。見ると足首がテーピングで巻かれていた。黄瀬くんが巻いてくれたのか。荷物を持ってドアに向かったら腕を掴まれた。


「昨日の電話、冗談ッスよね」
「本気だよ」
「俺、このままお別れなんて嫌ッスよ」
「…」
「俺のこと嫌いになったんスか」
「違う!」
「じゃあなんで」
「もう、ずっと前から考えてた」


ダメだ、


「気づいてた?」


言っちゃったら、


「私ずっと無理してた」


嫌われる


「デートの度に服やメイクに気を使って、どんどんそれが苦痛になった。凡人でオシャレじゃない私には辛かったんだよね」
「名っち」
「やめて!」


抱き締められそうになって、とっさに腕を払った。


「毎回こんなこと考えてたんだよ!?頑張ったってこんくらいにしかならない私なんかより、黄瀬くんには、可愛くて素でオシャレな子の方が似合ってる」


黄瀬くんは、静かに聞いていた。


「いつも、そんなこと考えながら俺といたんスか」
「…うん」
「だから外でのデートにあんま乗り気じゃなかったんスね」
「…」
「おかしいなと思ってたんスよ。何してても上の空な事が多くて楽しくなさそうだし、ファンの子達にいじめられてたみたいだし」
「気づいてたの!?」
「気づいてないと思ってたんスか?」
「だって、私いつもバレないように普通に…」


チッチッチッと言いながら人差し指を左右に揺らして、呆けている間に引っ張られ、ベッドに座る黄瀬くんの足の間に収められた。


「俺の世界は名っち中心に回ってるんス」
「なっに言ってんの!?よくそんな恥ずかしいこと真顔で言えるわね」
「それに俺はオシャレな子が好きなんじゃない。名っちが好きなんス」
「そ…うですか」
「そっ。だから余計な心配なんかせずに俺に愛されてればいいッスよ」
「バカ」


ニッと笑う黄瀬くんを見上げると、口元が赤く少し腫れていた。そっと触れてみる。


「ど、したの、これ…」
「あぁ、昨日切っちゃったみたいで…」


夜の出来事を思い出して、血の気が引いた。


「…なんであんなことしたの」
「ハハッそれさっき俺が言ったことッスよ?」
「顔に傷つけちゃったら仕事出来ないじゃない…私なんか助けないでほっといてくれれば良かったのに」


黄瀬くんから笑顔が消えた。これは、怒ってる。謝る間もなく背中と膝の裏に手を回され、そのまま宙に浮いたのかと思うと背中に衝撃を感じた。フッと暗くなって、私に馬乗りになった黄瀬くんが窓からの光を遮ったのだと理解した。


「自分がどういう状況だったかわかってるんスか」
「で…も、黄瀬くんが傷つくくらいなら私なんか」
「名っちはいつも“私なんか”って言うけど、俺にとっては、世界に一人しかいない俺の大事な人なんスよ」
「黄瀬くん…」
「だから気づいてよ。俺は名以外いらない」
「!」


自分を見下ろす黄瀬くんがあまりにもキレイで、息を飲んだ。


「…泣かないでよ」
「はっはぁ?泣いてないっス!」
「えぇ〜?」
「さすがに名っちでも怒るッスよ」
「アハハ!ごめんっちょっ、ごめんってば」
「許さない」


ぐしゃぐしゃに髪の毛をかき乱されてた。


「俺のこと、嫌いになったんじゃないんスよね?」
「うん」
「ちゃんと好きなんスよね?」
「うん」
「はぁ〜っ良かった!嫌われてたらどうしようかと思った」
「…ごめん、もう別れるなんて言わないから。それに…」
「?」
「自分で思ってたより黄瀬くんのこと、大好き、みたい」
「うぅ〜名っち〜可愛すぎる!嫌っつっても一生別れる気ないっスから」
「…うん」


黄瀬くんに“そんなに無理して頑張っちゃう程俺が好きだったんスね”なんて言われて、今更ながらそうかも、なんて思ってしまった。


「…つか、俺だって心配なんスからね」
「え、何が?」
「名っち、モテるから」
「えー?ないない。告白とかされたことないし」
「…そりゃ変なやつが名っちに近づかないように、赤司っちに頼んで潰してもらってたんで」
「つ…つぶっ…!?」
「ちなみに昨日のやつらと名っちを傷つけたファンの子も潰してもらったんで安心して」


にっこり告げられて自分の顔がひきつったのが分かった。


「あの…潰すってど、どういう…」
「やり方とかは分かんないスけど、ま、赤司っちに頼んだら再起不能は確実ッスね。俺の名っち傷つけたんだからそれくらい当然ッスよ」
「…き、黄瀬くんって意外と…」










「腹…黒い…?」


(なんか言った?)
(いいえ何も…あ、(赤司くんっていったい…))

20120812 →あとがき
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