あ、そう [ 1/2 ]


「キャーーーーー!かっこいいーー!!」
「あら、名ちゃんがよく騒いでるのってこの子?」
「そうなの!ストリームってグループのヒロト!やばいよねやばいでしょやばすぎるぅぅぅぅ!!うはあああぁぁぁぁぁ」
「…まぁまぁね」
「え〜玲央ねぇ手厳しいなぁ。」


特番の歌番組で汗をきらりと光らせ、笑顔で舞う男の子に私は頬を染めた。
ストリームというのは、多くの男性アイドルタレントを抱える事務所のグループの一つである。ヒロトはそのグループのリーダーで一番人気。ドラマや映画、舞台にも引っ張りだこで、今やヒロトを見ない日はない。私は周りの友達もドン引きレベル(らしい)のヒロトファンであり、ストリームのファンだ。家中グッズがひしめき合い、ライブにももちろん参戦。ドラマは欠かさず録画している。そんな私の家に今日は玲央ねぇが泊まりに来た。両親が揃って泊まりで家を空けることになり、元々家族ぐるみで仲の良い実渕家とご飯に行った時おばさんがその話を聞いて「名ちゃん一人は危ないわ!あんた行ってきなさい」と玲央ねぇの背中を押した。両親は何故か大賛成で、お母さんは玲央ねぇの肩を掴み「それは助かるわ!玲央くん、名をよろしくね。いろんな意味で!むふふ」とニヤニヤ笑っていた。
いろんな意味が何を指すかは誰も教えてくれなかったけど、どうせこの子料理出来ないから作ってあげてねーみたいなことだろうし、別にいいけど。


『だ〜から〜』
「ヒロト!」
『ゆ〜めを〜』
「ヒロト!」
『忘れ〜ないで〜!皆いくよーっ3、2、1!』
『「ストリーーーーム!!!」』


“わーっ!”四角い液晶の中でブンブン揺れるサイリウムに合わせて自分も両手を激しく動かす。玲央ねぇは呆れた様子でホットココアをすすって「そこでやってもヒロトには届かないわよ」とじとめを向けたけど、それでもいいと思えるくらいはヒロトの事好きだから!という私の叫びに「バカ」とため息をついた。


「あ、そうだ!これを見れば玲央ねぇもヒロトファンになるよ!じゃじゃ〜んドラマ“秋風に吹かれて”のDVD〜!」
「何なのそれ」
「去年やってたヒロトの主演ドラマ!大企業のお嬢様を好きになった平凡な主人公が頑張るお話なんだけどね」
「ありきたりね」
「…今日の玲央ねぇ冷たい」
「そう?名ちゃんの気のせいじゃない?」


細められた目と弧を描く唇、美形な玲央ねぇはどんな顔をしてても見映えがいいけど、今の顔はなんというか、凄く…胡散臭い。どんなこともズバッと言い切る玲央ねぇが、じわじわとただ不機嫌オーラを滲ませているだけというのは極めて珍しいと思う。


「とにかく!玲央ねぇも面食いだし、これ見たら絶対テンションあがるから!」


DVDを読み込んでる間のしんと静まった空気がなんとも気まずくて、私はひたすら“早く出てきてヒロト…!”と唇を噛み締めた。私の願いが届いたのか、パッとテレビが明るくなって愛しのヒロトが映し出された。


『あの、壺を割ったのは僕です!』
『よくもやってくれたな!これはイタリアから取り寄せた一点物なんだぞ、どうしてくれる!!』
『一生働いて償います』
『ま、待ってください!』
『お嬢さま…!』


「途中みたいだけど…どういうストーリーなの?」
「これはね上司主催のパーティー会場に行った二人なんだけどお嬢様が無理して履いたヒールでふらついて壺を割っちゃうの主人公はそれを庇うんだけど結局お嬢様がバラしちゃってそこに惚れた主人公が告白する大事な回なの!!」
「あ、そう」


興味がないのをひしひしと感じながら力説する。これを皮切りに、あのシーンもこのシーンもと芋づる式の話題を語り尽くしている内に、ストーリーは最も気に入っているシーンへと差し掛かった。


「ちょちょちょ…!ここここ玲央ねぇここ!見てて!」
「ずっと見てるわよ」


『俺じゃダメか…?ずっと、好きだったんです』


「っキャァアアアアアァァァァァ!!!」
「ちょっ、うるさ!」


刷りきれる程見たDVDなのに、未だに毎回同じ反応をしてしまう。両手で顔を覆うけれども、しっかり指の隙間から画面を凝視する。奇声を発し悶える私に玲央ねぇは一層深いため息をついた。


「これのどこがいいの?」
「えぇ!?最高だよ!このいつもは敬語なのにそれが一瞬なくなるとことか!」
「そういうのって女の子は皆ときめくものなのかしらねー」
「ときめくよー!特にヒロトなら尚更。私なら食い気味でOKするね」
「…ふーん。じゃあ、私がやっても効果ある?」
「え…?ちょっ、うわ」


テーブルにマグカップを置いた玲央ねぇがゆっくりと瞬きをして、さっきまでの興味なさそうな瞳とは違い痛い程の視線を当てられた。
顔からおろしかけた両手を掴まれ、そのまま押し倒されてラグに縫い付けられる。え、と思う暇もなく体を跨がれ、太ももを膝で挟まれ完全に動けなくなって初めて玲央ねぇの顔をそろりと見上げた。


「れ、玲央ねぇ…?あの」
「オレがずっと機嫌悪かった理由、分かる?」
「オ…!?」
「名鈍すぎんだよ、そりゃ誰だって好きな女が他の男にキャアキャア言ってんのは良い気しねえだろ」
「え…っえ?え?」
「ずっと好きだった、オレと付き合え」
「えええ!?」
「…違うか。俺と付き合ってください…?ま、どっちでもいいけど…」
「は…?え、え」
「見返りがないヒロトより、目の前のオレの方がいいだろ?」
「そ、うです…ね」


玲央ねぇの変貌ぶりに圧倒されポカンとする私に、妖艶に微笑んで見せた玲央ねぇはグッと顔をおろして私の唇を食べるように口に含んだ。のち、起き上がって自分の唇をペロリと舐め「ごちそうさま」なんて言うから、思わず顔を赤くしてしまった。渇いた喉を潤そうとゴクリと息をのむと、玲央ねぇが飲んでたココアの味がして更に恥ずかしさが膨らんだ。









あ、そう


(おばさんの“いろんな意味”はどこまでが許容範囲かしら…)
(なんのこと?)
(こっちの話よ)
(よく分かんないけど機嫌直ったね!)

20121129 →あとがき
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