恋愛偏差値 [ 2/3 ]


「いい加減、誰か本当に好きな女の子だけに絞ったらどうなんですか?手当たり次第に声かけてたって良いことないと思いますけど」
「絞ってるさ。そのためにこうして経験値積んでるんだろ」
「はい?先輩好きな人いるのにナンパしまくってるんですか!?」
「ああ」
「ああ…じゃないですよ!サイテー!」
「なんだよ、オレはお前の為にこうやって…」
「はあ!?私の為!?」


先輩がネットで変な知識を得て可愛い子に声かけまくってるのが私の為?ついに精神崩壊に陥ったのか先輩よ…。そもそも“私の為”だっていうならこんなことせずに…いや、これ以上は高校に入って散々忘れようとした感情なんだから、今更言えるわけがない。


「変なこと言わないでください。支離滅裂してますし、私の為になるなんて到底思えません」
「…確かに名の為には違うな、オレの為だ。可愛い子と何人も付き合えばオレの事を見てくれると思って…」
「どこの世界に遊び人を好きになる女の子がいるんですか!?残念なことに先輩は遊べてないですけどね!!」
「くっ…!痛いところをついてきたな…。だがそういう人が好きだと言ったのは名だろ」


…は?と口を半開きにして固まってしまった。今日の先輩は本当に理解に苦しむ。日本語っぽい他の言語を聞かされてるんじゃないかとすら思い始めた。

自慢じゃないけれど、私は存外真面目な性格で男性アイドルや流行りの歌とかも分からないし、周りの女子みたいにキャピキャピしてない。高校でついたあだ名は“姐さん”。義理堅く面倒見が良いしはっきり物を言う、そんな一面から極道物とかに出てくる姐さんみたいだと、このあだ名が浸透した。そんな私の好みが可愛い子と何人も付き合ってる遊び人?寝ぼけたこと言ってんじゃないですよ!私が好きなのは、好きなのは…。


「だって名言っただろ、オレの中学の卒業式の日に」
「卒業式…?」
「帰宅中にオレが好きなタイプはって聞いたら、恋愛偏差値高い人って答えたじゃないか」
「恋愛…偏差値…?」


先輩の真剣な眼差しを見る限り、嘘ではなさそうだ。なんとか記憶を手繰り寄せて、あの日の会話を思い返してみる。


「………あ」
「思い出したか?」


…思い出した。

あの日、先輩は同級生との打ち上げを断って私と帰ることを選んだ。どこかぎこちない先輩が奇妙で、そんなに卒業式に緊張したのかと鼻で笑った私に、先輩は冗談めかしながら「ほら、名に第2ボタン取っといた」なんて私にボタンを差し出した。





―――――


「取っといたぞって…誰も求めなかったのが悲しいから貰ってくれ、の間違いじゃないんですか」
「バッカ!オレ結構モテるんだぜ?」
「じゃあその先輩を好きな子にあげれば良かったのに。それに私欲しいなんて頼んでないですよ」
「可愛くないなー、オレはこれから離ればなれになるから寂しいだろうと思ってだな…」
「なっ…!寂しくなんかないです、むしろ静かになってせいせいしますよ!」


フンッと私が顔を背けると、先輩は行き場を無くした手を引っ込めて、ボタンをポケットにしまった。
先輩はそれっきり喋らなくなって…ちょっと気まずい。言った後に後悔する事が多い私は、今も例にもれず後悔している。「ありがとう」って可愛く笑顔で貰っておけば良かったのかな。


「…名は、さ…」
「あ、はい」
「好きな奴…いるのか?」
「え…っ!?い、いいいないです!」
「じゃあ好きなタイプは?」
「はいっ!?な、なんなんですか急に…!」
「いいだろ、これからあんまり会えなくなるんだし。兄貴分としてお前がどんな男に興味あるのか知りたいんだよ」
「そっ…んな事言われても…!」
「それならオレなんかどうだ?結構イケてると思うし、勉強もスポーツもそこそこ出来るぞ!」


どういうつもりなのか、先輩は私の目を見つめている。つられて私も見返すけど恥ずかしさに耐えられなくなって俯いた。ここはなんて答えるのが正解なんだろう。今までただの幼なじみと思っていた女が「先輩みたいな人が理想です☆」とか返したら引く…?先輩が冗談で言ってた場合これは痛すぎる。更にこの後まともに喋れる自信がない!いっそ先輩と正反対の人を挙げて、最終的に「冗談ですよ〜」って言えばなんとかなるんじゃ…!


「れ、」
「れ?」
「恋愛偏差値が…高い人がいいです」


バスケ一筋だった先輩の逆、パッと浮かんだのがこれ。先輩は短く「分かった」とだけ言って、鋭く前方を睨んだ。

このビジョンを最後に、回想から意識を引き戻す。


「え、ってことはアレを真に受けて…!?」
「その偏差値とやらをあげるには恋愛をたくさん経験すべきだと学んだ。結果は…まぁ…少しナンパが上達した程度だったが」
「いや、全然してませんから。というか、上達しなくていいです」
「え?」
「先輩がナンパ止めるなら高校の制服のボタン、貰ってあげてもいいですよ」
「どういう意味だ…?」
「…にっぶいですね、そんなんじゃ一生恋愛偏差値なんか上がりませんよ。先輩が好きだって意味です!」
「…!」


やっと全てを悟った先輩は、クールな顔に似合わない満面の笑みを浮かべ私に抱き着いた。大きな図体してるのに、まるで子供の時みたい。あの頃とはまるで違う状況だけれど、匂いや感覚は体が記憶している気がした。フッと笑って、先輩の背中に回そうとした腕を止めたのは、恋愛偏差値マイナスの先輩の囁きを聞いたからである。


「名、君と結ばれるのは運命だったんだ。この運命を変えることなんて出来やしない、何故なら現にこうしてオレたちは結ばれたんだからな!」
「あー…よく分かんないけど喜んでるであろう事は伝わりました」


とりあえず、先輩がこんなことを言ってる間は誰も相手にしないだろうから、仕方なく私が付き合ってあげようと思う。










恋愛偏差値


(例え神でもオレ達の仲を引き裂くことは…)
(ちょっと黙ってもらえますか)

20130110 →あとがき
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