恋愛偏差値 [ 1/3 ]


「誰でもいいから付き合いたい!」
「先輩…」


この世には誰が言ったか、残念なイケメンなんて言葉がありますけれども、森山先輩には実にふさわしい言葉ではないでしょうか。切れ長の目やストレートな髪、高い身長と耳に残るいい声はなかなか好印象なはず。それでも森山先輩に彼女が出来ないのはどう考えてもこの誰でもいいという至極最低な精神に原因があると思う。しかも森山先輩の誰でもいいは、誰でもいいのではなく“可愛い女の子なら”誰でもいい、なのだ。…更に最低である。


「お、可愛い子発見。名ちょっと先行っててくれ」
「行くのはいいですけどフラれた場合私の横に戻ってこないでくださいね」
「その心配はないぞ!」


心配はしてません。恥ずかしいんですよ。どうせトリハダも爆発して飛んでいくようなさっっっっむい誘い文句でドン引きされるはめになるんだろうから。そんな人が隣に来て、声をかけたお姉さんから変な目で見られるのは避けたい。


「何がダメだったんだ」
「…面白いだろうから聞きますね。なんて誘ったんですか?」
「君の白い肌で僕を春巻きのように包んでくれないか」
「馬鹿なんですか?」
「最高の殺し文句だと思ったんだけどな…」


一丁前に顎に手を置いて考えるんじゃないよ。考えなくたって酷いって分かるでしょうが。なんだよ春巻きって…アンタのどこにも包みたくなるような魅力的な具の要素がないんですけど。パクチーみたいな苦味しかないんですけど。

いつからこんな風になってしまったのか、と長い付き合いである私だから出来る考察をしてみる。隣家であり、所謂幼なじみな私と森山先輩は物心ついた時から一緒に遊んでいた。

小さい頃、女の子みたいな見た目だといじめられていた先輩を助けるために男の子達をボコボコにするような暴れ馬だった私は、大人しくて泣き虫の先輩を守らなきゃいけない、なんだか自分がお姉さんかのような感覚があったんだけれど。

先に中学生になった先輩を追って中学生になってみれば、先輩は見違えていて。私より高くなった身長も男らしい筋肉質な身体も泣き虫ではなくなったとここも、もう私の知っていた先輩ではなくなっていた。いじめられて「名ちゃ〜ん」なんて泣いてた面影は微塵もなくなっていて、予想外なことにモテていたのを覚えている。その頃はまだ純粋なバスケ少年といった感じで、彼女が欲しいみたいなことは言ってなかったはずだ。

中学に続いて同じ学校に進んだ私はたまたま帰る途中で先輩と会って、マジバに寄ったことがある。その時には「彼女欲しい!」状態だったから…高校に入ってからそういう事に興味を持ち始めたってこと…?


「どうしたんだ?眉間にしわなんかよせて」
「あ、すいません。ちょっと昔の事を思い出してました」
「昔の事?」
「先輩が私に泣きついてきたこととか」
「なっ…!いつの話をしてるんだよ!」
「だから昔の事です」


誰に知られると困るのか。先輩は普段細めの目を大きく開いてキョロキョロと辺りを見回した。その頬は心なしか赤く見える。そのオロオロした姿がなんとなく昔の関係に戻ったような気がして懐かしい。気が強くて素直じゃない私にいつも振り回されてた先輩。今は女の子にフラフラする先輩に私が振り回されてるけど。


「つーか、いい加減その“先輩”ってのと敬語どうにかしてくれよ。違和感が凄い」
「先輩は先輩ですよ。学校で先輩にタメ口きいたりしたらいろいろ言われるじゃないですか」
「いろいろって?」
「それはあのー…付き合ってるのか、とか…」
「名は嫌なのか?オレと付き合ってると思われるの」
「い、嫌に決まってるじゃないですか!こんな息するみたいにナンパしてその度にフラれてる人なんて!」
「…そうか」
「…え、先輩…?」


予想外の返しに勢いで口走った言葉を後悔する。先輩が一瞬苦しそうな顔をした気がしたから。傷つけたかもしれないとみるみる体の芯が冷たくなって、早く謝らなきゃと思うのに上手く言葉が出てこなかった。


「あ、あの、先輩…本当は私…」
「お、あの後ろ姿…アレは絶対に美人だ!行ってくる!」
「………」


そうでしたね。森山先輩とはこういうお人でしたね。ウキウキと弾む背中を視線で追いかけて先輩の動向を探る。

声をかけた先輩に気付き振り返った女性は満更でもない反応で、笑顔で対応していたが次に先輩の(多分余計な)何かを聞いて苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、スタスタと去っていった。


「おかしいな…イケたと思ったのに」
「だから戻って来ないでくださいよ」
「そういえばオレが行く前何か言おうとしてなかったか?」
「…気のせいですよ」


ふーん、とさして興味もなさそうな感じで先輩は先ほどの敗因について考えているようだ。大方「もしかしてどこかでオレと会ったことがないか?あぁ、きっと前世だな。オレと君は前世で結ばれていたんだろうな、だからオレ達が出会ったのは必然だったんだ」とかなんとかいったんでしょ。


「何が気に入らなかったんだと思う?」
「…今度はなんて言ったんですか」
「もしかしてどこかでオレと」
「あーもう大丈夫です」


ここまで的確に当ててしまう自分が怖い。「女の子はロマンチックな言葉に弱いって書いてたのに…」隣でそう呟いた先輩に言いたいね、履き違えてますよと。
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