不器用紳士の苦悩





「うおー、ナミすわぁーん、ロビンちゅわーん、お美しい!」

 いつも通り、目をハートにさせたサンジがくるくると二人の周りを飛び回った。二人は煌びやかな刺繍の入ったチューブトップとヒラヒラと踊り子のような、横にスリットの入ったサルエルパンツを履いていた。パンツに刺繍されたビーズがキラキラと光っている。

「この村の伝統衣装なんですって」
「へえ、踊り子みたいな伝統衣装なんだな」
「お店の人が破格で譲ってくれたの。ラッキーだったわ!」

 ナミの表情から、相当値切ったな、とウソップは頬を引きつらせた。

「ジャラジャラしてて意外と動きにくいな」

 サンジはその声にどきりと心臓が大きく鳴ったのがわかった。普段ハイネックを着て男装に近い格好をしているユカリとしては、かなり露出度の高い格好であったが、ミニスカートなどよりは動きやすそうだという点から着ることを受け入れたのだ。しかし、思っていたよりも動きやすくはないことに不満を露わにした。

「おー、ユカリがそういうの着るの珍しいな」

 ルフィはサンジの作ったおやつの団子を口に入れた。

「ナミとロビンが買ってしまったんだ」
「あら、そんな言い方したら、着る気がなかったみたいじゃない」
「選べるなら着なかったよ」
「もう、そんなこと言って。そんなレアなユカリの姿が見られたんだから感謝してよね!」

 ナミはちらりとサンジを見た。サンジはまたどきりとする。クソ感謝してます。思わず大声で口から出そうになった言葉を誤魔化すようにタバコに火をつけた。

「誰かと思ったぜ」

 見張り台から降りてきたゾロがユカリを見て呟いた。驚いたゾロの表情にユカリは困ったように笑った。

「似合わないのはわかっているが、ナミとロビンにどうしてもお揃いがいいと言われたんだ」

 ナミとロビンに弱いユカリは、いつもなんだかんだと二人の言う通りにする。

「そうか?似合ってるじゃねぇか」

 さらりとゾロが言えば、ユカリは目を見開いた。

「そ、そうか。そう言ってもらえるのは、嬉しい」

 少し頬を赤くして、ユカリは視線を床へと落とした。かわいい、とサンジはその照れた姿を見て思う。けれど、同時にその姿を引き出したのがゾロであるということに苛立ちを覚えた。

「俺もよく似合ってると思うぞ!」
「ありがとう、チョッパー」

 ニコニコとチョッパーが言うと、ユカリは微笑んでその頭を撫でた。な、とチョッパーがサンジに話を振ると、サンジはぐっと喉がつかえる感覚を覚えた。

「あ、ああ」

 歯切れの悪い返事しか出来ず、サンジは自分自身に苛立った。綺麗だ。美しい。誰よりも。そんな甘い言葉を吐きたいと思うのに、その言葉は出てこない。ユカリを前にすると、いつも女性に掛けている甘い言葉が出てこなくなる。まいったな、とサンジは頬を掻いた。ユカリは少し悲しそうに目を伏せたが、サンジは珍しく晒されている太腿を見ていたためにその事には気付かなかった。

「ゾロ、ここの地酒を買ってきた」
「お、気が利くな」

 ユカリはゾロに手にしていた酒瓶を顔の高さまで掲げて見せた。ゾロは歯を見せて笑うと、それを受け取った。

「よし、飲むぞ」
「味見だけさせてくれ」
「おう。グラス持ってこい」
「オイコラ、マリモ」

 レディを使うんじゃねぇ、とサンジは言おうとするが、ユカリは既にキッチンの方へ足を向けていた。

「うるせぇよ、ぐる眉」

 酒瓶から視線をサンジに向けゾロは睨んだ。

「いつものよく回る口が使えねぇ内は黙ってるんだな」

 舌打ちをし、サンジはゾロから視線を逸らした。

「美味いツマミでも作って来いよ」

 ニヤリと笑うゾロにサンジはギリッと奥歯を鳴らした。

「ユカリが喜ぶぜ」

 断ってやろうと口を開こうとしたサンジは、ぐう、と唸った。

「ゾロ、グラス持って来たぞ」

 ゾロは、おう、と答え、酒瓶を掲げて見せた。ふと微笑むユカリにサンジはきゅんとすると同時に、その微笑みを向けられている相手へじりじりと嫉妬心が渦巻くのを感じた。可愛い。マリモなんかに笑わないでくれ。そんな想いに思わず眉間を寄せた。
 チラリとユカリがサンジへ視線を向けた。ムッとしたような表情のサンジに、ユカリは困ったように眉を下げた。

「どうかしたのか?サンジ」
「あ、いや」
「やはり似合わないか?見てて不快ならすぐに着替えるから許してくれ」

 ユカリは早口でそう言うと、踵を返そうとした。サンジは慌ててその二の腕を掴んだ。突然掴まれたことに驚いたユカリはハッと振り返りサンジを見上げた。

「いや、その、に、似合ってるよ」
「無理はしなくていい。さっき眉間に皺が寄っていた」
「それは!」

 頬を赤くしたサンジはユカリを見下ろすと、柔らかそうな胸の谷間が視界に入り、う、と鼻を押さえた。

「その!君が!君が、う、美しいと思ったからで!」
「は?」

 突然掛けられた言葉にユカリはピタリと動きを止めた。投げかけられた言葉を理解すると、顔を真っ赤にした。

「他の奴らが見たかと思うと腹立たしかったんだ!」

 ユカリの口はまるで金魚のようにパクパクと開いたり閉じたりを繰り返した。

「君が誰よりも美しいと思うから、ッ!」

 ユカリはこれ以上は勘弁して欲しいと、ヤケクソのように言葉を紡ぎ出すサンジの口を手で覆った。マメがありながらも、やはり男とは違う柔らかさのある手の感触にサンジの心臓が高鳴った。

「か、勘弁してくれ・・・」

 恥ずかしそうにお手上げだと言うユカリにサンジは、クソ可愛いな、と心の中で叫んだ。

「お前ら、そういうのは二人きりの時にしろよ」

 呆れたようにゾロが言うと、ユカリはぴたりと動きを止め、そういえば買い忘れたものがある、と逃げるように船から駆け出した。

「これで私たちもイライラしなくて済みそうね」
「ふふふ、そうね」
「サンジ君がしっかりしてくんないと。いい加減お金取るわよ」
「まいったな・・・」

 ナミの言葉にロビンが頷くと、頭をガシガシ掻いてタバコを咥えなおしたサンジは街の方へと視線を向けた。





2023/07/11





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