加勢にはいるはずの陣営が倒れていた以上、なんの陣も組まずに戦場に飛び込むなど死にに行くようなものだ。
即座にそう判断を下したのは桂だった。

せめて配置だけでもと考え、的確な指示を出す彼に従い、次々と彼らの持ち場が決められてゆく。

しかし紫苑の名と彼女の持ち場が上がったとたん、銀時が声をあげた。


「ちょっと待て、まさかこいつに先陣きらせる気か」
「他に適役がいない。いまここに居る人間で一番速いのは紫苑だ」
「正気か?いつもとは話がちげえ」
「銀ちゃん、わたしいつも先見隊だったし。自信あるよ」
「……だから、いつもとは違うって」
「私達、今までずっと小太郎の指示に助けられてきたんだよ。だから今回だって大丈夫」
「…………」
「ね、信じて」


紫苑の笑みに銀時は黙った。
沈黙は肯定。それからは早かった。

あとはどのタイミングで荒れ地を戦禍へと変えるか、それを任された紫苑は空を見上げる。
最後の最後だというのに空は相も変わらず無愛想に灰色を敷き詰め彼女らを見下ろしていた。
苦笑を零した紫苑が次に目に移したのは戦場。隣には同じようにして立っている高杉の姿があった。


「てめえがまた無茶言ったせいでうちの鬼さんは機嫌悪くしてるぜ」
「ええ?無茶は言ってないつもりなんだけどなあ。晋助もそう思うの?」
「は、いつものことだろ」
「ひっどいよ総督!」
「くく…、柄にもなく総督とか言ってんじゃねえよ」


喉を鳴らして笑った高杉は不意に紫苑の腰にある刀を見て、怪訝そうな表情を浮かべる。

それに気がついた紫苑はわざとらしく嫌そうな顔をしてそっぽを向いた。


「おまえ刀一本じゃねえか」
「……銀ちゃんと同じことを…」
「お前そんなんじゃ数分ともたねえぞ」
「ええええ、それいま言っちゃうの!?しかも真顔とかやめてよ縁起でもない…!」
「冗談を言ったつもりはねえが…」
「だからやーめーてーよー!へいきだから!ちゃんと途中で拾うから!」


そう答えた紫苑はがばっと勢いよく高杉の方を向く。ふざけたような口調と、表情とは裏腹に彼女の目は真剣そのもの。


「…………」
「…な、なんだよう」


たじろぐ彼女にこの分なら大して問題ないだろうと高杉は大げさに息を吐いた。
びくりと紫苑が顔を強ばらせる。


「……ま、せいぜいくたばらねえよう気ィつけな」
「と…とーぜん!晋助もね」
「あたりめーだろ馬鹿」
「ふふふー、いざとなったら助けに行くから安心しなね」
「くく、てめえは誰に口きいてんだ?」


いつもとなにも変わらない、余裕の笑みを目の前で見て、紫苑は笑った。
そしてもう一度だけ刀にそっと触れる。


(…私は、大丈夫。みんながいるもの)


高杉は、知らない。密かに震えていた彼女の足は彼との会話の中でいつの間にか落ち着いていた。

前を向く、息を吸い込んで、紫苑はゆるりと微笑み口を開いた。


「…じゃあ、行きますか」

「──……行ってきます、先生」


そうつぶやいた刹那。ふと、彼女の耳を掠めた声がした。
懐かしいと感じたのは一瞬。
一歩足を踏み出せばそれすらも消える。

しゃらりと音を鳴らして刀を抜けば少し懐かしい重みが手のひらに伝わった。ひんやりしたそれをぎうと握りしめれば途端にどくどくと脈が速くなる。

彼女が走り出せば、それが合図。
おわりの舞台の幕が上がった。


フィナーレへ、と


翔るは、少女と、彼らと。



 
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