拠点へと帰り着いた紫苑が一番に探したのは高杉の姿だった。
それというのも、自分の腕の中でおとなしくしている黒猫がいちばんに懐いていたのは高杉であると彼女は確信していたからだ。境内を少し歩いたところで彼女は彼の姿を見つけ、嬉々とした様子で駆け寄った。
一方で高杉は紫苑に気づくやいなや、きょとんと目を丸くする。


「ただいまー!」

「…随分とはえーな。まだ銀時もヅラも帰って来てねーぞ」

「そうなの?」

「で、見つかったのか?」

「うん!ほら!」


そう言って抱いていたクロを高杉の目の前まで持ち上げると驚いたのか、彼にしてはまたしても珍しく目をぱちくりとさせて言った。


「クロじゃねえか」

「みゃう」

「久しぶりだって!」

「……」


しばし彼女の腕の中のそれをじっと見つめたあと、無言でクロの頭に手を乗せた高杉。その表情は端から見れば無表情のようにも見えるが、紫苑の目には僅かに頬を緩めているように見えた。
それに気づいた彼女は満足そうに笑う。


「…まあ、いいか」

「なにが?」

「おまえ忘れてるだろ」

「なにを?」

「……てめえ…」

「え?ちょ、待って私なんかした?」


自分が首を傾げるたびに高杉の無表情が呆れ顔がなっていくのを見て戸惑ったのか、あたふたとする紫苑は高杉にもう一度だけ問うた。

しかし返ってきたのは疑問に対する答えではなく、盛大なため息ひとつ。


「そもそもてめえは何の目的で外出てたんだよ」

「何のためって、」

「じゃあヅラと銀時は今何してんだ?」

「………、あああ!」


高杉が言わんとしていることにようやく気づいたのか、すぐさま顔色を変えて飛び出そうとした紫苑にちょっと待てと声をかけたのは高杉だ。


「まだなんかあるの晋助!てゆうかヅラに怒鳴られる!」

「ー…、もういいだろ」

「よくないから!だから晋助はだらけ杉とか呼ばれちゃうんだよ!」

「………はあ、」

「ぎゃああごめんなさい!冗談です刀しまってください!てか言動と行為一致してないからね、ため息つきながら刀取り出すの止めてくれますか」

「るっせーよ馬鹿話聞け。俺が言ってんのはだな…、」

「……はい」

「いや、………」

「は…?…ああそうゆうこと!」

「あ?」

「うふふー、晋助ったらやっぱり寂しかったんじゃ「ちげえ」

「………。じゃあどうしたの」

「…暇なら……手合わせ…」

「ん、なんて?」

「………仕方ねーから…手合わせしてやるって言ってんだ、馬鹿」

「は…?」


次に呆けた顔をするのは紫苑の方だった。それもそのはずで、これまで紫苑から手合わせの申し込みをすることはあれど、高杉からそれを言われたことなど無かったからだ。


「何を言い出すのかと思ったらそういうことか。うん、もちろん付き合うよ!」

「………」

「晋助…?」

「……わりぃな、お前の鍛錬にゃあならねえかもしれねえ」

「………、まだ痛むの?」

「痛みはもう気になるほどじゃねえ、けど、まだ片目じゃ距離感が上手く掴めねーんだ。次の戦までにゃあせめて前と同じくらい動けるようにならねーと…」

「……そっか」


高杉の言葉を聞いて僅かに眉を下げた紫苑だったが、それもすぐに笑顔に変わった。困ったように頭をかきながら口角を上げる。


「や、でも晋助相手だと今の状態でも私なんか足元にも及ばないからなー」

「あ?」

「だから有り難く手合わせさせていただきますよー。ああ、それと言っとくけど私は手加減する余裕なんか無いから覚悟してよね」


にやりと一つ笑みを零して踵を返した紫苑はどうやら竹刀を取りに行ったらしい。ぼんやりとその背中を眺めていた高杉だったが、しばらくするとくつくつと喉を鳴らして笑い出した。


「相変わらず…超うぜえ」


高杉があんまり心配されすぎるのを嫌っていると知ってか知らずか、心配する素振りをしたかと思えばすぐに挑発するような態度をとる。
はたから見ればただの生意気な娘のように見えるが、高杉からしてみればそれは違った。


「うぜえ…けど、……許してやるよ」


相も変わらず酷く不器用なその優しさが柄にもなく愛しかった。


日々増す



 
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