先生、先生、せんせい。
しょうようせんせい。


「あなたは生きたいのですね」

「あなたが言う"こんな世界"で、私と生きてみませんか?」

「紫苑、はどうでしょう?」

「あなたが気に入ってくれたならとても嬉しいです。それにあなたはその名に負けないくらいとても綺麗ですよ」


 「吉田松陽を殺したのはお前だよ」




孤独が世界をめた日



「あああああああああああ」


フラッシュバック、そして絶叫。
絶望の波に溺れる紫苑はぶつりと頭の中で何かが切れる音の聞きながら意識を手放した。

天導衆と呼ばれた男はその姿を見てせせら笑い、地面に伏した彼女にゆっくりと近づいてゆく。


「壊れたか…まあ、都合がいい」


ぐいと腕を掴んで引っ張り上げられた彼女の体はまるで人形のようにだらりと力無く揺れた。

それに構わず男は紫苑を横抱きにし、踵を返して歩を進める。


「白夜叉は逃したが…、今日のところはこの女だけでも十分だ。戻るぞ」

「しかし旦那、その娘ここで始末しなくともよろしいのですか?」

「構わん。寧ろ殺さずに連れ帰った方が何かと都合がいい」

「と、申しますと?」

「死体になってしまえばそれで終いだが生きてさえいればこれは情報を吐き出す人形だ。それに…」

「?」

「…こやつは女だ。使い道ならいくらでもあるだろう」


その言葉を聞いたまわりの天人らは下美た笑みを零し、口々に何かを囁き合っては喉を鳴らして笑った。


「お前らの好きなようにすればいい。当初の目的はこいつらの首だ。後はどうなろうが構わん」

「クク…、そりゃありがてえ」

「丁度いい。最近溜まっていたんだ」

「そもそもこの女は暴れすぎた」

「これはその報いだと思え。目覚めた時には今以上の絶望を味わうことになるだろうよ」

「恥辱にまみれて死ね」


意識の無い彼女に向けて浴びせられる言葉はどれも汚れたものばかり。

それを聞いた男は喉の奥で笑い、彼女の顔に唇を寄せると耳元で小さく囁いた。


「おい紅蝶々、聞こえているか?」


当然返事はない。


「これこそがお前が死に物狂いで戦った結果だよ」


他人の憎悪を生み、それを増幅させ、奪い、奪われ、憎しみ合う。


「どれだけの理由を並べようと、戦争とはそういうものだ。…哀れな女よ」


蔑むようにそう言えば、男は女から視線を外し、前を見向いて言い放った。


「…もうここに用は無い。行くぞ」

      「待てよ」


しかしどこからともなく聞こえた冷めた声色に、男はぴたりと足を止める。

だが男が驚いた顔をしていたのもほんの僅かな時間だった。

すぐに再び口角を上げた男は振り向きもしないまま口を開いた。


「……馬鹿なヤツよ。せっかくやっとの思いで我らから逃げ延びたと言うのに、わざわざのこのこと戻ってきたのか?」

「……」

「なあ………、白夜叉よ」


その言葉と同時に男が振り返れば、そこには先ほど声を発した人物がまさに鬼の形相をして佇んでいた。


「…そいつを、紫苑をかえせ」


その声に、空気がふるえた。



 
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