「紫苑!こっちだ!」

「待って晋助!」

「はあ、はあ……よし、着いた」

「晋助、ここなんにもないよ?」

「こっち来て見ろよ」

「なあに?………!」

「な、すげえだろ」

「……すごい…、っすごいよ晋助!
とっても綺麗!」

「だろ?ひまわりっていう花なんだって先生が言ってた。ここは先生と俺の秘密の場所なんだ!」

「え、でも…じゃあわたし来ても良かったの?ここは晋助と先生の秘密の場所なんでしょ?」

「いっ…いーんだよ!紫苑は俺の妹みたいなもんだからな!仕方ねーから特別にいいんだ!」

「妹?わたしが…?」

「…嫌か?」

「……っ、しんすけ!」

「う、わっ!な、なんだよ」

「ありがとう…っ」






あの時、本当はわたしだってずっと、晋助をまるで兄のようだと思っていたよ。
家族を知らない私に、兄弟というものを教えてくれた。

いつも傍で見守っていてくれた。


「……晋助は昔から何も変わらないね」

「そりゃ成長してねェって意味じゃねえだろうな?」

「違うよ。昔からいつも私たちのこと引っ張ってくれるなあって思って」

「…、てめェらがどんくせーからだよ」


身体を起こした二人は地面に腰を下ろし、木々で塞がる空を見上げながら隣り合わせに話し続けていた。

久方ぶりの柔らかな時間が過ぎてゆく。


「……昔さ、村塾から少し離れた所にひまわり畑があったよね」

「あ?…あー…、確かにあったな」

「今どうなってるのかな?」

「……あの頃から誰かが管理してたわけでもねぇみてーだったし。今でも自力で花咲かせてんじゃねえか?」

「そっか…なんか嬉しいなあ!」

「んなことが嬉しいのかよ」

「うん!嬉しい」

「クク…、お前らしいな」

「そう?」


懐かしそうに微笑む二人の表情は過去を愛おしむように、優しい雰囲気を身に纏っていた。

そこでふと口元を緩めた紫苑は空を見上げて声を零す。


「木が邪魔で、よく見えないけど…きっと今日の空もすごく綺麗なんだろうね」

「…だろうな」

「ね、覚えてる?私たち前に約束したよね。廃寺の屋根の上で、またみんなでこの空を見ようって」

「ああ、」

「私あの時決めたんだ。この先何があってもあの言葉を忘れないって。いつか来る、その日のために生きようって」

「大袈裟なやつ…」

「そうかもしれない」


思わず零れた笑みに小さく声も足して、紫苑はそう言った。
対する高杉もそれ見てほんの少し口角を上げる。


「晋助は…このままで居てね」

「ああ?何だよいきなり」

「先生がいなくたって、世界はまだ捨てたもんじゃないよ」

「…おい、」

「晋助は私の大切なひとだから」

「紫苑…?」


次の瞬間に高杉のほうを振り向いた紫苑は優しい笑顔を浮かべていた。
それはあまりにも誰かに似ていて、高杉は思わず息をのむ。


「約束だよ」











「だから絶対に死なないで」










その途端に不意をつかれた高杉は目を見開いた。
しかし気づいた時には遅く、その一言と同時に首へと振り下ろされた紫苑の手刀によってぐらりと身体を傾ける。

霞んだ視界、朦朧とする意識の中で、地に伏したまま高杉は僅かに顔を持ち上げ、言った。


「紫苑、ってめェ…!」

「……ごめんね晋助、でも此処ならきっと安全だから」

「そういう問題じゃ、ねえ…っ」

「私、いま動かなかったら多分一生後悔すると思うんだ」

「…くな、」

「……心配しないで、必ず戻るから」

「行、くな…」

「……行ってきます」


のやくそく


そう言って二度と帰ってこなかった人物を彼は知っている。

けれど無情にも彼の意識は、彼女の言葉を最後にぷつりと途絶えた。



 
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