「…晋助ごめん、私ひとりでまたみんなに迷惑かけるとこだった」

「……迷惑なんかじゃねぇよ」

「うん。ありがとう。…でも、ごめん」

「?、何が」

「私ね、やっぱり怖いんだ」

「銀時を失うことが、か?」


そう尋ねる高杉に紫苑は今にも泣き出しそうな笑みを見せると言葉を紡いだ。


「ひとりぼっちが、だよ」

「………」

「変だよね、私。先生が居なくなってしまった時もそう思ってたの。置いていかないで、ひとりにしないでって。まだ私のまわりには沢山の人たちが生きているのに、なんでかな」

「………」

「わたしの大切な人たち、その中の一人でも居なくなってしまったら、私の世界なんて簡単に色褪せちゃうの」

「………」

「私の世界はみんなが色づけてくれたもの、だから。だから…っ、」

「……紫苑、」


高杉の手のひらが紫苑の手のひらに重なり、そのままゆっくりと彼女は地面に押し倒される。

仰向けになった状態で高杉を見上げる彼女の目は月明かりに揺れていた。


「しんすけ…?」

「独りが怖いならいつだって俺がそばに居てやる」

「…………」

「色褪せちまうのが怖いならお前の世界ぜんぶ、俺の色で染め上げてやるよ」

「…私は、」

「お前が、誰のことを好きでも…今はかまわねェから」

「…………」


どうして今まで言えなかった言葉たちがすらすらと声になって口から零れるのか、話している高杉本人にも分からなかった。

ただ、今はっきりと思うことは─…


「ただ俺ァ…お前のそんな顔だけは見たくねェんだ」

「…ご、めん」

「謝んなよ、」

「………どうして…」

「?」

「どうしてしんすけはいつも私の欲しい言葉をくれるの?」

「………」

「優しすぎるよ、ばか」

「違う」

「え…?」

「優しくなんざねえよ、俺ァただ…」


目の前で紫苑の泣いている姿なんて見ていたくなくて、なのにその泣き顔を見れば見るほど愛おしさが溢れて、止まらない。


(例えこいつがいま、俺を見ていなかったとしても)


溢れる想いが身体を動かす。
いつか言いたくとも言えなかったその言葉は何故かいま、いともかんたんに口からこぼれ落ちた。


「お前を、…愛してるだけだ」


それはそれは優しい声色だった。
あたりの静寂に溶け込むようなその声が彼女の心に響いたと同時に、その言葉を紡いだ唇は彼女のそれと重なった。

壊れ物を扱うようなその口づけに、彼女はもう一粒だけ涙を零した。


色えのぐの行方


いつの間にこんなに大きな存在になっていたのか。いつからなんて、そんなもの分かりゃしないけど、ただそれは確かに幼き頃から育んできた想いだった。



 
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