「銀ちゃん!綿あめがあるよ!」
「お、おう」
「晋助!あとで花火上がるんだって!」
「…そうか」
「あ!ヨーヨーつりだ!小太郎、辰っちゃん!あれ一緒にしよう!」
「うむ」
「あっはっは!今日はいつも以上に元気じゃのー紫苑!」
「うんっ、だってみんなで一緒に来れたんだもん!」
笑みを絶やすことなく動きまわる紫苑を微笑んで見守る桂と坂本。そして紫苑の勢いに少々押されぎみの銀時と高杉は、五人で並んで祭り会場を歩いていた。
すると紫苑が突然くるりと振り向いて後ろ歩きの状態で話しだす。
「それにしても花火なんて久しぶりだよね。最後に見たのいつだっけ?」
「おい馬鹿、危ねぇからちゃんと前見て歩け」
「あはは、だいじょぶだよ。晋助ったらお母さんみた…、っい!」
そう言って前方に視線を戻そうとしたその時、ぐらりと傾く紫苑の身体。
すぐに訪れるであろう衝撃に彼女は思わず強く目を瞑るが、いつまでたっても痛みは来ない。
「……ん?」
不思議に思った紫苑が目を開けば、先ほど一番近くに居た高杉のしかめっ面が目の前にあった。
どうやら倒れかけた紫苑を高杉がとっさに抱き留めたらしい。
「ったく、だから危ねえっつっただろ。慣れねえ下駄なんか履いてるくせによそ見なんざするんじゃねえよ」
「ご、ごめん晋助…」
「ちったァ気をつけろ馬鹿」
「いだっ!」
そう言った高杉はぺしりと音を立てて紫苑の額を手の甲で小突く。
そして紫苑が額をさすりながら歩き出そうとした時、ふいに感じた手のぬくもり。
見ると先ほどいつの間にか離れていた高杉の手が、ふたたび紫苑の手をしっかりと握っている。
「…やっぱおめぇは危なっかしくて見てらんねぇわ。しかたねーから手ぇつないどいてやらァ」
相変わらずの仏頂面だがそこにはちゃんと確かな優しさがあって、紫苑ははにかむように笑みを零した。
「…ありがと、晋助」
一方そんな二人をさも面白くないという風に見ていたのは銀時だった。高杉においしいところを持っていかれた挙げ句、手まで繋がれているのだ。もう黙って見ているわけにはいかないと、銀時は引きつる笑顔で二人に近づいていった。
そして空いている方の紫苑の手をぎうと握る。
「ん、銀ちゃん?」
「銀時…てめぇ何してやがる」
「おいおいそんな歩く18禁みてぇなヤツと手ぇ繋いでたら不健全だぜ紫苑〜。手ぇ繋ぐなら銀ちゃんとにしなさい」
「てめ、ふざけんな誰が歩く18禁だコラ。むしろてめぇなんかと手ぇ繋ぐ方が危険だ。糖尿になっちまわァ」
「てめぇこそふざけんな!俺はまだ糖尿予備軍っつーポジションでふんばってんの!頑張ってんの!」
「それ何のフォローにもなってねぇんだよクソ天パ!」
「あーもう二人共耳元で叫ばないでよ、鼓膜破れたらどうしてくれんの」
またもや喧嘩をはじめる両隣の二人に挟まれた紫苑は、まるで我関せずといったふうに耳に手を当て、そっぽをむく。
「っ、とにかくだ!」
「ぎゃっ!」
そんな紫苑を突然抱きしめたのは高杉だった。
「てめぇだけには触れさせねー!」
「え、ちょ…何コレ。この状況の意味が分からん」
「あ゙あ゙あ゙あ゙!今すぐそこのエロ杉から離れろ紫苑!妊娠させられっぞ!」
「は?!に、妊娠?!」
「するわけねェだろうが《ピ──》もしてねェのに!!」
「ぎゃあああああ!大声で何言っちゃってんの晋助ェェェエ!」
「…どうやら大層俺に殺されてェらしいなァ銀時ぃ」
「はっ、返り討ちにしてやんよ」
「何でそうなんの?!ってかこんな所で真剣を抜くなァァァ!」
「まったく……何やら騒がしいと思えばまた喧嘩か?」
「小太郎!今までどこに居たの?」
「ヨーヨーつりとやらをしていた。ほら紫苑、お前のだ」
「わ、ありがとうっ…って、んなことやってる場合じゃない!!」
「おぉ!賑やかじゃのう!」
「辰っちゃん!……居たの?」
「あっはっは!まじで泣いていい?」
「それより二人を止めなきゃ!」
見ればすでに抜刀した二人が今にも互いに切りかかりそうな雰囲気を醸し出している。その様子を祭り客たちが取り囲むようにして恐々と見ていた。
「「オラァァァァア!」」
「ちょ、待てェェエ!」
そしてついに二人が互いに刀を振りかざした、その時だ。
ドン
夜空に咲き誇る美しい花火が銀時を、高杉を、祭り客を、そして紫苑たちの顔を照らし出した。
それは地上に居るものたちの目を刹那に奪っていく。
しばらく呆気にとられていた銀時と高杉もはたとして、なんとも言えない表情で刀を鞘に納めた。
「そこのお兄さんたち」
ふいに聞こえたその声に二人が目を向ければ、そこには花火に照らされた紫苑の、それはそれは完璧な笑顔。
「……黙って花火見るぞゴルァ」
さきほこるはなひとつ
「きれいだねー」
「………お…おう…」
「でっかいねー」
「………そう、だな」
「つぎ喧嘩したら銀ちゃんと晋助とは二度とお祭り来ないからねー?」
「「………へい」」