「最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ」
呪詛のように同じ言葉をぶつぶつと何度呟いているのは紫苑達よりも早く林の中へ入った銀時だった。
辺りをできるかぎり見ないようにしている彼は恐怖心からか、ものすごい速さで歩いている。
「だいたいよぉー、俺ぁ紫苑が心配でわざわざこんな所まで来たっつーのになんで別行動なんだよ!ありえねぇマジありえねぇ…!……つーか、確か高杉と一緒だったよな、あいつ………」
そして思い出すのは少し前のこと。
「俺はぜってェ負けねえよ、てめェにだけはなァ…」
「…あいつはやっぱ紫苑のこと…」
そう呟いた銀時は、暫くぼうと高杉と紫苑のことを考える。しかし突然はっとした表情をして髪をかきむしり、喚いた。
「…………っあ゙ー!くそっ、今うだうだ考えてもしかたねえ!とにかく今は早くこの林を抜け………」
しかし何故か、ふたたび歩きだそうとした銀時の足は、まるでそこに縛りつけられたかのようにピクリとも動かない。
それもそのはず。
今の今まで恐怖心いっぱいでがむしゃらに歩いていたのだ。寺へ続く道どころか来た道すら分かるはずがなかった。
その事実にようやく気がついた銀時は、歩いていた時以上に顔を真っ青にして叫んだ。
「嘘だろォォォォ!!」
「ん?今何か聞こえなかったか?」
「鳥か何かじゃろう。それよりほれ!寺が見えてきたぜお」
丁度そのころ、桂と坂本は寺にたどり着いたところだった。
「………坂本、これは……」
「さて、わしらはのんびりあとの3人を待つことにしようかの!」
「…まったく、お前というやつは…」
桂の呆れた笑顔に坂本はもう一度いつもの大きな笑い声で応えた。
ところ変わって銀時はというと、行き先も分からぬ林の中、とりあえず歩いていればいつか抜けるであろうと腹をくくって歩き出した。が、一向に変わることのない景色に不安はつのっていくばかり。
「っちくしょー、どこだここは………」
誰に言うでもなく訴える銀時に、当然返事など返ってくるはずもない。
「もーやだ……。紫苑〜……」
ほんの少しだけ泣きそうになりながら想い人の名を呼んだ、その時だった。
「 」
「……?、今なんか聞こえ…」
微かに聞こえた声に淡い期待をよせる銀時だったが、その期待は次の瞬間、恐怖へと豹変した。
「あー!次はおにいちゃんだっ」
「??!」
銀時が知っている限り、自分のことを"おにいちゃん"などと呼ぶような仲間はいない。ならばその声の主は?
まさにいま銀時が一番聞きたくなかった類の声だった。
声にならない叫び声を上げた銀時が走りだそうとした時、その背に小さな衝撃。
「「ぎゃぁあぁぁあ!!」」
「…………ん?」
叫び声は銀時の声と、さっきとは違う、聞き慣れた声。
「紫苑?」「銀ちゃん?」
それはまさしく紫苑のものだった。
「うわぁぁあん!銀ちゃんんんん!!」
「うおっ!な、なんでお前がこんなとこに…、っつうか高杉は一緒じゃねーのか?!」
「うえっ、ひっく…、晋助とは、声が聞こえて……、はぐれてっ…!走ってたらっ、ううう」
「ちょ、意味わかんねぇよ。とととりあえず落ち着け!」
「ぎ、銀ちゃんだって声震えてるよ」
「ゔ」
ついさっきまでお互いに目に涙をためていた二人だが、今は緊張しきっていた表情も緩んでききている。そして紫苑が口を開いた。
「てゆーか銀ちゃん。あの、さ……さっきもなんだけど……こ、子供の声、聞こえなかった?」
「………………聞こえ、た」
「………だよね」
「や、きききき気のせいだろ!!」
「そ、そりゃそーだよねアハハ!この前こそ不思議な猫ちゃんに会ったばっかだってのにまさかまた、なんてことはないよね」
「だよなーアハハハハハハハ」
「何かあったの?そんなに笑って」
「いや楽しいってゆうかむしろ…え?」
「「……………………」」
ゆっくりとゆっくりと二人が振り向いた先には小さな男の子が満面の笑みを浮かべて立っていた。
そしてであったえがお
それは固まった彼らが絶叫と共に動きだす十秒前の出来事だった。