「くっそ…!一気に畳み込め!!」


一人の天人のその言葉を皮切りにドッと押し寄せてくる天人たち。


紫苑もそれに怯まず、両手の刀をもう一度強く握りしめ、雄叫びをあげた。


「あああぁあぁあぁあ」




──────────────
──────────




「はぁ、はぁ、チッ…雨かよ………」


その頃銀時も雨空の下、あたりの天人を全て斬り倒したあと仲間を探していた。


「こう視界が悪いと動きづれぇ……、くそ、他のやつらはどこだ……?」


なぜかいつもより仲間が気になる。
早く合流しろ、と体がうめいているような………、とにかく


(何か嫌な予感がする………)


こんな時の銀時の予感は大抵当たってしまうことを本人も自覚していたため、彼は尚更眉をしかめた。その時だ。




「────────!!」




「!、今のっ」


微かに聞こえた声、あれは確かに紫苑のものだ。

銀時が声のした方向へと走ると、そこには思ったとおりの人物が残り数人の天人と戦っている姿があった。

その身を真っ赤に染めて。



「紫苑!大丈「あんたらが……」っ?」


けれど今までに聞いたことのないほどの紫苑の、低く冷たい声を聞いた彼は思わず立ち止まる。


「あんたらが銀ちゃんの何を知ってるっていうの…?銀ちゃんは化け物なんかじゃない…っ!誰よりも人間らしさを持った、私たちの…………私たちの誇りだ!それを化け物なんて言うやつは誰が何て言おうと絶対に許さない……!」

「俺は坂田銀時!」

「あんな優しい人を………っ」

「友達、増えたじゃん?」

「あんな、暖かい人を……っ」

「紫苑!」

「"夜叉"と呼んだのは、あんた達だ!」


そう泣き叫びながら天人を睨みつける紫苑。その姿を胸が潰れる想いで見ていたのはまぎれもない、その"夜叉"。

銀時はその言葉を聞き、思わず唇を噛み締めた。──彼女が泣いている。

その時、一人の天人が叫んだ。


「くっそぉお!!お前こそ化け物だ!
何故っ、何故その体で動ける!!」


この言葉にはっとした様子で紫苑の方に向き直る銀時。よくみると遠目で見えなかったが紫苑の背中には数本の刀が刺さったままでいた。


「ただの人間がその怪我で動けるはずがない!お前は化け物だ!お前が死んだって悲しむ奴なんか居ない!人間どもも清々するだろうよ!!得体のしれない化け物女が消えてくれたってなぁ!」


その言葉を聞いた銀時は目を見開くと同時にその目に炎を灯した。
そして瞬時に駆け出すと、あっという間に天人を背中から切り倒す。


「ぐぁあああっ」

「だっ、だれだ?!」

「っ、白、夜叉……白夜叉だァァ!!」


そう叫ぶ残りの天人も彼の手によって即座に斬り倒され、もはや立っているのは紫苑と銀時だけとなった。


「銀ちゃ…っつぅ」

「紫苑!!」


紫苑が倒れる直前にその体を抱き留める。同時に両腕に感じる、生暖かい感触。


「おい、大丈夫か!?なんでこんな大怪我…っ、相手は何人だったんだよ!!」

「に、にじゅ、くらい…」

「にじゅう!?っ馬鹿野郎!!
一人でそんな数相手にしたってのか?!
他の奴らと合流すんのが優先だろーが!
死にてえのかお前はっ!!」

「そ、だね。ごめんなさい。
けど我慢、できなかった……!」

「っ、?」

「ふ、っ………悔しい……!!
銀ちゃんが化け物なんて、銀ちゃんは、そんなんじゃないのに!!なんで……」

「……………紫苑」


どうして泣いていたのか、そんなこと聞くまでもない。そう思うと同時に銀時の胸に溢れたのはどうしようもない切なさと暖かな何かだった。


「紫苑、ありがと、な」

「なん、で?……ひっく、」

「……お前が化け物だなんて、あいつらどーにかしてるぜ。
お前は、猫が好きで幽霊が苦手で…馬鹿みてーにいつも笑ってるやがる、ただの女だよ」

「……………。…ほら、やっぱりだ」

「あ?」

「銀ちゃんは、あったかい」


そう言った紫苑はまだ涙を流していたが、柔らかく、どこか幸せそうに笑っていた。


「…………だから、そりゃお前だろ」

「銀ちゃん、あり…、っつ…!」

「っ、紫苑!すぐ手当てしてやっからもう少しだけ踏ん張ってくれ!」


そう言うやいなや銀時は紫苑を背負い、雨の中全速力で拠点まで駆けていった───…。




 戦場とはなんて哀しい場所なんだ
 ろう。それをかき消すように、忘
 れるように、私たちは戦場から離
 れた時、精一杯笑うんだ。たとえ
 血に慣れてしまったとしても幸せ
 を噛みしめて。愛する人を護る。
 ただそれだけのために。強く強く




つたえたいとば
    「ありがとう」




声は届かずとも囁いた言葉は確かに。



 
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