居間に集まるいつもの四人。

紫苑、銀時、桂、坂本
……高杉の姿は見当たらない。

今日は戦もなく、のんびりとした空気が拠点にも流れていた。

各々好きなように過ごしていても自然といつもの面子が同じ場所に揃うようになったのはいつからだろう。

そしてそれは桂が刀の手入れをし、銀時と坂本が昼寝し始めた時のことだった。

同じくごろごろしていた紫苑が「あ、」と小さく声をあげた。
それに気づいた桂が刀から紫苑へと目線を移す。


「どうかしたのか?紫苑」

「うん。そーいえばさ、猫ちゃんの名前まだ決めてないよね?」

「あー……そういえばそうだな…」


子猫が来てからもう二、三日が経とうとしていたが今だにきちんとした名前が無いことにようやく気がついた。

今まで紫苑は"猫ちゃん"と呼んでいたし桂や銀時、坂本は"猫"と呼んでいたためそれが定着しつつあったのだ。

高杉に至っては猫にかまっているところすら、いまだ見たことがないのだが。


「名前つけてあげようよ!」

「別にかまわんが今さら必要あるのか?
今のままでも支障ないと思うのだが…」

「……………ううん!やっぱり名前って大事だと思うから………」


「 紫苑 」


そのとき紫苑の脳裏によぎったのは自分に名前をくれた人物、松陽先生のあの日の笑顔だった。

初めて名を呼ばれた時のなんともいえないあの嬉しさ。それを想うとやはり名は大切だと思った。


「俺も名前は大切だと思いまーす」


間延びしたその声に二人が振り向くと寝ていると思っていた銀時が小さく手をあげていた。


「銀ちゃんもそう思う?」

「まあな。つーことで俺におすすめの名前、っつーか候補があるんだが……いいか?」

「えっ!もしかしてもう考えてくれてたの?」

「もちろんだ」

「さっすが銀ちゃんっ!それでっ?その名前ってどんなの?」

「俺も気になるぞ銀時」


興味津々とばかりに目を輝かせる紫苑と桂に銀時はにこりと微笑みながら即答した。


「 いちご大福 」

「「却下」」

「ちょ、えぇぇ?!なんで即答ォォ?!
すっげぇいい名前じゃねーか!!あの猫が呼ばれるたびにいちご大福思い出して幸せ気分になれるんだぜ?」

「幸せ気分になれるの銀ちゃんだけだし!ってゆーかソレ銀ちゃんが今食べたいだけだよね!?そんなふざけた名前つけられるわけないでしょうがっ!」

「はぁぁぁ?!ふざけてねーよ!俺はいっつも真剣だ!むしろ真剣の塊みてーな人間だ!」

「それが普段死んだ魚の目してる奴のセリフかァァァ!!」


銀時が考えていたという名前にわくわくした自分が情けなくて紫苑は大きなため息をついた。


「ほんとにどうしよーかな……」

「だからいちご大「却下」……まだ言ってねーぞコノヤロー」


銀時がぶつぶつと文句を零すがそれをまったく相手にせず、そっぽを向く紫苑。

それを見ていた桂がぽつりと呟いた。

「…名前とは案外難しいものだな」

「だね。小太郎は何かない?」

「うむ。実は一つ思いついたのだが…」

「えっ嘘!なになに?」


ダメもとで聞いてみたのだが、ちゃんと桂も考えてくれていたことが嬉しかったらしく、紫苑は顔をほころばせた。


「ねー小太郎!どんな名前?」

「なんだか照れるな」

「まあそーゆわずに!」


では…、と頬を染めて真剣な顔で向き合った桂の答えを黙って待つ二人。

そして返ってきた答えは、


「○ャースなどはどうだ?」

「銀ちゃん今日のおやつどーする?」

「そうだな御手洗団子なきぶん」

「あー、私も「ちょっと待て無視とは何だァァァ!!人に聞いておいてその態度、ふざけるのも大概にしろ!!」

「その言葉そっくりそのままバットで打ち返してやるわ!!あんたは世界観無視しすぎだから!ここポケ○ン居ないからね?!ニャー○も居ないからね?!」


一息でそうつっこむと酸素不足で咳き込む紫苑。それでもツッコミ足りない様子だが。

まず、溜めて溜めて出た答えがそれか。とか。頬を染めて照れ笑いしながらそれか。とか。
言いたいことはもっとある。

咳き込んでいる間、銀時が苦笑いを浮かべて彼女の背中をさすっていた。


「おつかれさーん」

「はあ、はあ……どーも、」


それから桂にとりあえずそれも却下だと伝えてから彼女はうなだれた。


「ああもう……、誰か普通の考えをもつ人は居ないのー?」


すると昼寝していた辰馬が起きたらしく、大きく背伸びしてから目をこすってあたりを見回す。


「みんなで何話しゆー?」

「あ、おはよう辰っちゃん。猫ちゃんの名前どーしようって話してたの」

「猫ちゃん?あの猫のことがか!」

「うん。辰っちゃんは何かいい名前とか思いつかない?」

「うーん…難しいのぉ〜。
そういうのは高杉の得意分野じゃろう、あんしは頭がえーき!」

「あっ、そーいえば晋助が居るじゃん!晋助ならまともな名前考えてくれそう!」

「そこ強調するとこなのか紫苑……」


そう言ったのはどことなく傷心している様子の桂だ。

それにはお構いなしにすっくと立ち上がった紫苑を見て銀時が面倒くさそうにため息をつく。


「オイオイまじかよ紫苑。
高杉が猫の名前なんざ律儀に考えてくれるたぁ思えねーんだが…」

「そんなの分かんないよ銀ちゃん。
とりあえず行ってみよ!」

「ったく、しかたねーな…」


そう言いつつも立ち上がる銀時を見る限り、若干は高杉の反応が気になるらしい。


「じゃあさっそく晋助探そっか!」


そう言った紫苑は銀時と共に居間を出た。


なづけおやはれだ

名前って親の性格でちゃうんだよね。


「そういえば紫苑はなんか思いつかなかったのか?」

「え?考えてたよ?ちょーかわいいやつ。そーいえばみんなの聞いてたら言いそびれてたわ」

「へぇ、何だったんだよ?」

「なすび」

「…………………高杉探すか」



 
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