「あ!猫ちゃんだ!」


今日は朝から小太郎と一緒に食料や必要な物の調達のために村に来ている。

すべての用事を済ませ、帰ろうとしていると道端で小さな子猫を見つけた。

黒い毛並みがふわふわしている可愛らしい子猫だった。


「ヅラ!ヅラ!子猫だよっ!かーわーいーいー!!」

「ヅラじゃない桂だ。ふむ、ノラのようだな。それにしてもなんとすばらしい肉球…っ」

「ちょ…、止めてよヅラ。この子怖がってるじゃない。よーしよし怖がらなくていいからねー。ん?元気ないねー猫ちゃん。お腹すいてるの?」


尋ねると小さくミィと鳴く猫ちゃん。
これはかわいすぎるだろう、もう反則だろう、こんなのほっとける訳ない。


「ね、この子つれて帰ってもいい?」

「あ?あぁ、俺は構わんが……いやしかし高す「やったー!よし猫ちゃん!帰ったらすぐご飯あげるからね!」お、おい紫苑「そーと決まればいっそいで帰らなきゃ!走るぞヅラ!!」人の話を聞けェェェ!!」


あとヅラじゃない桂だ!とか聞こえるけどそんなの今は(いつも)気にしない!

早く帰って銀ちゃんや辰馬に見せてあげよう!

新しい仲間が嬉しくて、私は全速力で私たちの拠点へと走った。


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帰り着いた紫苑が庭に向かうと、縁側に寝転がっている銀時とその横に座っている辰馬を見つけた。

彼女は二人を驚かせようと思い、子猫を足下に下ろしてから話しかける。


「銀ちゃん辰っちゃん、ただいま!」

「おぉ紫苑!おかえり!村はどうじゃったか?」

「うんっ、久しぶりで楽しかったよ!」

「ってか紫苑、ヅラは?」

「おいてきちゃった!」


何やら嬉しそうにはにかんでそう答える紫苑に辰馬が首をかしげる。


「ん?何かあったがか?」

「うふー、実はねえ……じゃじゃーん!私たちの新しい仲間です!」

「仲間?………って、どこだよ?」

「もー、何言ってんの銀ちゃん。この子だよこの……子、」


しかし紫苑が振り向くとそこに居たはずの子猫は何処にも見当たらない。彼女の顔から徐々に笑みが消えていく。


「……」


紫苑が黙り込むのと同じくして黙り込む二人。暫くしてこの沈黙の意味が分からない銀時が痺れを切らしたのか口を開いた。


「ちょ、紫苑?銀さん紫苑が何言ってっかよく分から「猫ちゃあああん!」…え?」

「わたしのばかァァア!猫ちゃんお腹すいてたんだった!きっと今ごろご飯探してるんだね!ごめんね猫ちゃんー!」


今すぐご飯あげるからねー!と叫びながら家の中へと駆け上がる紫苑を唖然とした顔で銀時と辰馬が見送っていると、ようやく桂が帰ってきた。


「…ふう、あいつの足は化け物か?まったく……」

「おうヅラあ。さっき紫苑が新しい仲間とか何とか言ってたが何なんだ?」

「ん?ああ。村から帰る途中子猫を見つけてな…。腹を空かせてるのをみて紫苑が連れて帰りたいと言い出して…、まあそんなかんじだ」

「ああ、新しい仲間っちゅうのはそーゆうことがか!」

「まあ、あいつの性格からしてそーいうのはほっとけるわけねーわな」

「だろう?……しかし高杉が、な…」

「?、なんじゃ?」


頭上に疑問符を浮かべる辰馬に銀時がため息をつきながら問う。


「辰馬ぁ、お前高杉がここに子猫なんて置くの許すと思「アッハッハ!思わん!」…だろ?」

「紫苑と子猫にはかわいそうだが置いてはおけんだろうな……」


そんな話をしていると紫苑が子猫を連れて戻ってきた。


「はぁ、はぁ。ほら銀ちゃん!この子が新しい仲間だよっ、かわいーでしょ?」


少し息を切らしながらニコニコ笑う紫苑の腕の中にいるのはまだ小さな黒い子猫。


「おお、かんわいーじゃん」

「でしょ?よかったねえ猫ちゃん」

「でもなあ紫苑……」

「なあに?」

「うっ、」


まぶしいほどの笑顔を向けられ、子猫は多分置いておけないだろうなんて言えなくなってしまう銀時。

するとため息をついてから桂が言った。


「お前相変わらず紫苑には弱いな…。紫苑、その子猫だが…多分ここには置いておけない」


そうさらりと言ってのけた桂に紫苑が驚いた顔でなんで?と尋ねる。


「よく考えてみろ紫苑。高杉が子猫をここに置くことを許すと思うか?」

「え?うん。許すと思う」

「んっなっわっけっねーだろーがっ!
高杉だぞ?あの高杉が子猫の面倒みるとか…。うわ、鳥肌たった」

「晋助本当は優しいんだから大丈夫だよー。それに"とっておき"があるし」

「とっておき?」

「そう!……あ、噂をすれば……」


紫苑の目にはこちらに向かって歩いてくる高杉が映っていた。


「晋助ー!」

「あ?」


紫苑が言う奥の手が何なのかはさっぱり分からないが、とりあえず三人は黙ってことの成り行きを見守ることにした。


「見て見て!かわいーでしょ?」

「別に…、何だよそれ」

「新しい仲間だよ」

「あァ?まさかとは思うがここに置いておくつもりじゃねーだろうな?」

「もちろん置くつもりだよ?」

「駄目だ」

「やだ」

「……駄目だ」

「やーだー」

「駄目なもんは駄目だ!」

「嫌なもんは嫌だ!!」


だんだんとエスカレートしていく子供じみた言い合いに周りが呆れ始めた頃、高杉の短い堪忍袋の緒がついに切れた。


「ああああ面倒くせえな!猫のガキなんざ邪魔だっつってんだ!」


高杉がそう怒鳴ると突然黙る紫苑。
彼女の纏う雰囲気があまりにもがらりと変わったため、高杉は思わずたじろぐ。


「………お、オイ紫苑」

「………なの?」

「あ?」

「……邪魔、なの?」


そう呟いて顔を上げた紫苑の目には今にも溢れだしそうな涙が揺れていた。


「…っ〜!」


めったに泣かない紫苑の涙。うるんだ琥珀色の大きな瞳と上目遣いに高杉は思わず顔を真っ赤にさせるが、黙って見ていた3人が頬をひきつらせながら笑顔で迫ってきたため、すぐに平静を装った。


「た〜か〜す〜ぎぃぃぃ!!」

「女子を泣かせるとは武士として許されるかとではないぞ!」

「いくら紫苑が相手でもおなごは泣かしちゃいかんぜお!高杉ぃ!」

「てっ、てめェ等にゃあ関係ねえだろーが!!!」

「しんすけ……駄目?」

「!」

「たーかすーぎくーん?」

「……っちくしょー…!しかたねぇなまったくよォ、好きにしやがれ!」

「ほんと?!やったー!」

「………は、?」


嬉々とした声を聞き入れた四人が紫苑の方を見ると、さっきの涙はどこへやら、子猫を抱きしめくるくるとその場で回っていた。


「いやー、やっぱ晋助なら認めてくれると思ってたよ!ありがとうね!!」

「お、おいコラ待て……」

「ね?銀ちゃん、ヅラ、辰っちゃん!大丈夫だったでしょ?」

「いやいやいや!あの高杉に泣き落としなんて通用すんの紫苑だけだから!」

「?どーゆうこと?銀ちゃん?」

「みゃあああ」

「あっごめんごめん、お腹すいたよね?今すぐにご飯あげるからね!猫ちゃん」


そう言って四人の男を残して颯爽と家の中へ入っていく紫苑。
残された彼らは顔をひきつらせ、ただ静かにその後ろ姿を見送っていた。


「………おい誰だ。紫苑にあんな"とっておき"教えたヤツ…」

「アッハッハ!ありゃあ金時と高杉には効果抜群じゃの!」

「坂本てめェ叩っ切ってやろうか?意味わかんねーこと言ってんじゃねーよ」

「馬鹿もじゃ、なんで俺と高杉限定なんだコノヤロー」

「……貴様等まさか無自覚か?」

「「あァ?」」

「はぁ……」


しずくみいられて


だってそれはあまりに綺麗だったから。



 
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