そして俺たちは攘夷戦争に参戦した。
何故かすぐに俺たち4人の名は知れ渡り、俺はいつの間にか白夜叉と呼ばれるようになった。

高杉は鬼兵隊なんてもんを結成して、

ヅラは狂乱の貴公子なんて言われてやがる。(一体ヅラのどのへんが貴公子なのかくわしく教えてほしい)

そのころに坂本辰馬とも出会った。

そして紫苑は───…。










ある日の昼下がり、今日も木刀が交わる音が庭に響く。

対峙しているのは辰馬と紫苑。

俺とヅラは縁側でそれを眺めていた。

目の前で凛とした表情で木刀を構える紫苑は昔と比べるとやはり成長していて、それは俺たちも同じだった。

それは容姿だったり、剣の技術だったり、力だったり精神力だったりする。

ただひとつ予想外だったこと。

それは俺たちが予想していた以上に紫苑が美しく成長したことだ。

性格はそのままに、剣の技術はぐんぐん伸びていく紫苑にだんだん惹かれていった俺。

未だにこの感情の名前は分からないままだけれど。


…だって仕方ないじゃねーか。
恋と呼ぶには紫苑と共に過ごした時間は長すぎた。

とかいって…、俺がただ臆病なだけなのかもしれない。

今が居心地がいいからこのままでいいと、そう思ってしまう。

目の前で辰馬と木刀を交える紫苑は2本の木刀を鮮やかに振るう。

戦っているというよりも、それはまるで踊っているようだ。

美しい蝶のように、予測不可能な動きで、尚かつそこに隙はない。

そんな彼女についた異名。


───…紅蝶々


敵の血を浴び、紅く染まりながらも美しく踊り続ける蝶。

まっすぐに、ただ前を見据える凛としたその姿に敵も見方も息を飲む。

正直ぴったりなあだ名だと思った。蝶だなんて、そのままじゃないか。自由奔放で放漫な彼女にふさわしい。

本人はその異名をひどく嫌っているけれど…。


「─…ちゃん!銀ちゃん!聞いてる?」


ハッとして視線を上げると紫苑が腰に手をあて俺に向かって何か言っていた。


「わりぃ、ちょっと考え事してたわ」

「もー!……ま、いいけどさ!」

「で、何だったんだよ?」

「うん、あのね――」


こうして話していれば幸せそうに笑って暮らしている普通の女。

だがひとたび戦場に出れば敵も見方もが恐れる"蝶"。

柄にもなく少しだけ切なくなった。

紫苑はこれほどの容姿だ。

戦なんかに出てなかったらきっと今ごろ普通以上の生活を送れていただろうに。


「銀ちゃん?なんか元気なくない?」

「!……んなことねーよ」


そう言って縁側に寝そべる俺を見て紫苑が訝しげに眉間にしわを寄せる。

こいつはこーゆうのに敏感だ。
人の頭ん中見えてんじゃねーかってくらいすぐ人の負の気持ちを見破る。

それ以外はガキの頃から超超超ド級の鈍感だが。

………それにしても視線がいてぇ。

とりあえず何か言おうと思って紫苑のほうを見ると紫苑は突然目を輝かせて言った。


「わかった!!」

「うおっ?!んだよ急に…」

「ちょっとまっててね銀ちゃん!」


そう言って走り去っていく紫苑を唖然とした目で見送り、ため息をつくと、同じく縁側に座っていた2人が話しかけてきた。


「まっこと、紫苑は鋭いのぅ。金時の嘘なんかお見通しっちゅう訳じゃ」

「まったくだ。銀時、どうしたのだ?」

「馬鹿もじゃ、金時じゃなくて銀時だっつってんだろーが。……別に、なんもねぇよ。ただ、もし紫苑がこんな場所じゃなくてもっと普通なところで生きてたら今より幸せに暮らせたんじゃねーかって思ってただけだ……」


汚い血で染まる必要は無かったのではないか、と。


「……銀時、おまえの気持ちはよく分かる。だが「ぎーんちゃーん!!」…!」


桂の言葉を遮って勢いよく俺のところまで走ってくる紫苑。

その腕には大量の………

大量の、甘味?

驚いて顔を見上げるとふふふと得意げに笑う紫苑。


「銀ちゃん、甘いものが食べたかったんでしょう?」

「……………へ?」

「だからあんなに元気なくなってたんだよね。でも安心して、たくさん持ってきたから!饅頭に飴に〜…」


そう言って次々と持ってきた甘味を縁側に並べていく紫苑を見て呆気にとられていると突然辰馬が笑い出した。


「アッハッハッハ!紫苑〜、わしも貰ってもいいかの?」

「もちろんいいに決まってるじゃん!みんなで食べよーよ!ヅラも!」

「ヅラじゃない桂だっ!!……まったく、お前等がヅラヅラ言うから紫苑まで俺のことをそう呼ぶようになってしまったではないか!!どうしてくれるんだ!」

「えへへ、だって呼びやすいじゃん!」

「えへへじゃない!かわいーなもう!」

「……ヅラ、誉めてどうするんじゃ」

「あはは!…って、銀ちゃん何してんの!早くお菓子食べようよ、銀ちゃんのために持ってきたんだから」

「お、おぅ」


あまりの展開の速さに俺の頭は付いていけなくて突っ立ってしまっていた。

とりあえず3人に近づく。

すると突然紫苑が話し出した。

「…………わたし、わたしね!みんなとこうしてる時間がすき。だいすき!だから正直、戦は好きじゃないけど…。みんなとのこういう時間のために戦うんだって考えたら私はどんな状況だとしてもやっぱり戦うことを選ぶよ。

私がこの世界で一番居たいところはみんなのそばだから」


その言葉に驚いて紫苑の顔を見てみたら、彼女はいつもの笑顔で笑っていた。

…やっぱこいつ人の頭ん中見えてんじゃねーのか?

だってこいつは今、何の躊躇もなく俺の疑問の答えを言ってのけたのだから。


「………そーかよ」


思わず頬をゆるめてそう言うと紫苑は今日1番の笑顔で大きく頷いた。


しろやしゃのううつ


その原因も晴らしてくれたのも、君。


「そーいえば誰かいないよーな……」

「「「…あ」」」

「「「「高杉(晋助)……」」」」

くしゅん!!!!
ズズッ……………風邪か?」





 
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