それから数年後、望んでもない"その日"がやってきた。


「松陽せんせぇぇぇぇ!!!!」


燃え盛る村塾。泣き叫ぶ銀ちゃん。
私はわけも分からず、頭はまっしろ。
ただただそこで涙を流していた。

その瞬間から私の記憶は曖昧だ。

何も見えなかった。目の前は真っ暗で、村塾も先生も護れなかったという事実が胸に突き刺さって抜けないまま。
私はずっとその暗闇の中で泣いていた。


大切なものを護れなかったよ。

私はなんでこんなに弱いのかな?

つらいよ、さみしいよ、松陽先生。

私を置いていかないで──……


もう何もかもがどうでもよくなった時、ふいに聞こえた言葉。



───…世界を憎まないで。



ハッとして顔をあげるけどそこにはやはり何もない、闇ばかりが広がっている。

けれど確かに聞こえるこの声。暖かい…
……ああ、これはあなたのものですね。


あなたは世界に愛された子だから。

だからこうして生きているのだから。

その愛を受け取って、生きて。

まだ立ち止まる時ではありませんよ。

紫苑に寂しい想いをさせてしまうなんて、私は師として失格ですね。

けれど、けしてあなたは独りなどではありません。それだけは、忘れないでくださいね?

私はずっとあなた達を見守っています。

あの3人を、頼みます───…



一筋の光が見えて、それに手をのばした。真っ黒な世界は終わり、見えたものは天井。そこに先生は居なかった。


「…せ、んせい………」


気づくと私は泣いていた。なんだ、私は夢を見ていたんだ。

まわりを見渡すと、銀ちゃんと小太郎と晋助も泣いている。

3人が泣いていることに驚いて、とっさに手を伸ばした。


「ぎ、んちゃ……」


とたん、銀ちゃんにぎゅっと抱きしめられた。


「っ、紫苑!紫苑!
逝かないでくれっ!お願いだから…っ!
俺たちと一緒に、生きて…っ
もう、もう置いてかないでくれ、っ」


泣き叫ぶ銀ちゃんといままで今以上に涙を零す晋助と小太郎に困惑する。

どうして私が死んじゃうの?私は大丈夫だよ、銀ちゃん。

私は先生に銀ちゃん達を任されたんだもの。置いていくわけがないじゃない。


「……私は、だいじょうぶ。みんな、どうして泣いてるの?…泣かないで?」

「っ、紫苑っ!!」


そう言ったらまた強く抱きしめられた。





あとから聞いた話によると私は塾が燃えた日、泣き叫び続けて気を無くし、一週間眠り続けていたらしい。

そして目を覚ます少し前に一度呼吸するのをやめた、と。

きっと先生が私の魂をこの世界につなぎ止めてくれたんだね。

生きることを辞めようとした私をまた救ってくれたんだ。

私は2度、あなたに命を救われました。

私はあなたに恩を返すことができましたでしょうか?…………いいえ、きっとまだ返せていないでしょう。

だから先生、もう少し待っていて?

いつか私がそっちに行った時、必ず今度こそ、このご恩をお返しします。

それまで私は、先生が護ってくれたこの命を精一杯、悔いの無いように生きるから。

銀ちゃん達と一緒に……




それから少し経ってから晋助が私のところに来て、俺たちは攘夷戦争に出る。と言った。

間髪を容れず私も行く!と言ったらすこし目を見開いて、そう言うと思っていた。と笑ってくれた。

私もそれに笑った。

これから私達は、先生が護りたかったものを護りにゆくよ。




出発の朝。

すっかり元気になった私は空に向かって、みんなの前で叫んだ。


「先生の魂に誓います!私は死にません!銀ちゃんも晋助も小太郎も、何があっても絶対に死なせません!

そして3人が立派なお嫁さんになるまで私、生きてみせますからぁあっ!」

「ちょ、紫苑ちゃんんん?!このシリアスな空気、最後の一言で粉砕されたからね?ってかお嫁に行くのは俺らじゃなくね?むしろお前じゃね?」

「見ててくださいね先生ィィィ!」

「シカトかコノヤロー!」


銀時たちに背を向けて叫ぶ紫苑とそれにつっこむ銀時。その少し後ろで、桂と高杉は苦笑していた。


「……はぁ、紫苑のやつ…」

「あいつァ無理しててもバレバレだな。………元気なフリしてぇならせめて涙くらい我慢しろっつーの…」


そう呟いた高杉が銀時を押しのけ、紫苑の前に立った。

袖で紫苑の顔をゴシゴシ拭いてやると、彼女はその涙で濡れた顔でじとりと高杉を睨む。


「なにすんのばか、しんすけのばか」

「誰が馬鹿だ最強馬鹿」


泣いているくせに文句を言う紫苑がなんだか可愛らしく思えてしまって、思わず微笑んでしまった高杉は、優しい声でそう答えて、紫苑の頭を撫でる。


「………そん゙なごどされ゙だら、涙、どまんな゙ぐなるじゃんかぁ…!!」

「…ばーか。泣きたいときゃ泣け」

「っ、う、わあああああん!」


せきをきったように大声で泣きだした紫苑に驚いたのか、銀時はおろおろしている。桂は困ったように微笑み、高杉はぽんぽんと紫苑の頭をなでてやる。


(本当は寂しいけれど、悲しいけれど、それでも私たちはここを旅立つよ)


でも私は大丈夫。なんせこの3人と一緒なんだもの。だから涙も流せるし笑顔にもなれる。きっとこれからも、ずっと。


いってきますなみだ


瞬間、大きく風が吹いた。遠くでいってらっしゃいと聞こえた気がした。

「いくぞー!紫苑!」

「うんっ!!」

そして最後はちゃんと、本当の笑顔で。

「──……行ってきます、先生」





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これで村塾篇は終わりです!次からはやっと攘夷時代。白夜叉さんたちに暴れまわってもらいます!

村塾時代の話はもっと書きたいことがあったんですけど、あくまでこの連載は攘夷連載なので攘夷時代に進むにあたって必要な布石のみを載せております。だからもしかすると番外編として村塾の話はまた書くかもしれません。

とにかくここまでお読みいただき、ありがとうございました!
これからもよろしくお願いします。




 
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