合図と同時に銀時が打ち込んでくる。

やっぱりすごく重い一振り、持ちこたえるだけで精一杯だ。

両手の竹刀を使って耐える。

いつもならこのあと私が耐えられなくなり竹刀を弾かれて終わり。だけど、


(なんだろ、すごく動きやすい)


竹刀を一本使う時よりも断然軽い体。
軽い、というかとにかく動きやすい。

まるで体が竹刀に付いていってるような、そんな感じ。


(これなら)


紫苑が銀時の押しに耐えられなくなる前に、両手を広げるようにして彼の竹刀を弾く。

その勢いに任せてそのままくるりとまわり、勢いをつけて横から竹刀を振るった。

ふつうの剣道では考えられない動きに驚く銀時だが、すぐさまその太刀筋を見極め対応する。

すると紫苑も間髪を容れずもう片方の竹刀で追撃。

その動きはどう見ても今まで逃げ回っていたばかりの紫苑とは別人のようで、3人は目を見張った。

両手で竹刀を持っているため紫苑の一振りに込められるのは片腕の力のみ。

よって一振り一振りはそんなに重いものではない。

だが打ち込んでくる回数は普通の2倍。

もちろん竹刀を2本扱う相手と打ち合いをした経験などない銀時は少しずつ押されていった。

2本の竹刀を使う経験がないのは紫苑も同じなのだが、不思議なことに紫苑の動きには少しの無駄もない。

まるで昔からその動き方を知っていたかのように。

そして長い打ち合いの末、ほんの一瞬だけ銀時が息をついたのを紫苑は見逃さなかった。

瞬間、物がはじけるような大きな音。

銀時の竹刀が後方へ飛んでいく。

その光景に目を見開いたのはそれを見ていた3人だけでなく紫苑も同じだった。


「はぁ、はぁ、え?勝っちゃ、った?」

「ゼェゼェ、…紫苑お前、どこでそんなん習った?」

「へ?習ってないよ?竹刀2本なんて、初めて使った…」


へらりと笑う紫苑に対して、銀時はふたたび目を瞬かせる。


(あの動きは初めてのレベルじゃねえ)


「おい、銀時…」

「…あぁ。こりゃ松陽先生に報告だな」


ニッと笑ってそう言うと高杉も同じようにして笑う。

紫苑にはセンスがある。
力はないが、あの素早さがあるし、よく考えたらあいつにとって刀2本っつーのは1番いい形かもしれねー。

そう思ってまた笑う。

やっぱり競い合う相手が強くなってくのは嬉しいことだから。


「よっしゃあぁぁあ!!!せんせェェェ!!わたし銀ちゃんに勝ったぁぁ!!」


……っつってもやっぱ悔しいけど。


「てめっ紫苑!一回勝ったくらいで調子のんなぁぁぁ!!今のはちょっと油断してただけだっつーの!」

「ふふーん、見てなよ?銀ちゃん。
これからもーっと鍛錬して誰にも負けない位強くなってやるんだから!」

「なっんっでっお前がそんなに強くなる必要があんだよっ!
一応、お…おんな、だろ?」


そうだ、紫苑は女なんだ。
って意識したらちょっと照れちまったじゃねーか何で照れてんだ俺ェェェ!!


「一応って……ま、いいけど。
私には強くなりたい理由があるんだ」

「理由ってなんだよ」

「ふふっ、私はね。
護りたいから強くなるの!」

「護、る?」

「そお!」

「何を?」


そう聞いたら紫苑はくるりと振り向いて、あの誰もが心を奪われる笑顔でこう言った。


「銀ちゃん、晋助、小太郎、先生、村塾の子たち。みんなが私の居場所だから、だから私がみんなを護るの!」


あたしのかい


あたしの世界を、仲間を、大切な人達を護るために。あたしは強くなる。


「そっ、か」

「紫苑…ありがとうな。」

「へっ、だが俺が守られるだけっつーのは気にくわねぇ。…俺にも護らせろ」

「うんっ!晋助も一緒に護ろう!!」

「………おぉ。」

(俺が護るっつったのはお前のことだっつーの………)

(紫苑が鈍感でよかった…)

(銀時も高杉も一言たりんのだ。だが紫苑の鈍感っぷりもたいしたものだな。こればっかりはあいつ等に同情する)

「「「…はぁ、」」」

「?どうしたの三人共ため息ついちゃったりして…。幸せ逃げちゃうよ?」

「「「……………はぁ〜、」」」



 
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