「紫苑、ゼェゼェ、何お前なんでそんなに速いの?」

「まったくだ」

「まー私いままで走り回ってなんとか生き伸びてきたようなもんだからね」

「だからって逃げ回ってるばっかじゃ手合わせになんねーだろうがっ!」

「ゔっ…!」


紫苑には剣術というものの経験はまったくの皆無だったが、運動神経がよく、しかもこれまでの経験もあって動きはこの中のだれよりも早かったため剣を避けるのに関してだけは誰にも負けなかった。それゆえ誰の剣も届かない。


…しかし当然のことながら、それでは紫苑の剣も誰にも届くことはない。


「紫苑、おめェもちゃんと打ち込んで来いよ。これじゃ練習になんねェ」

「うぅ〜、だって〜」

「だって?」

「どーも振りにくいとゆうか、しっくりこないとゆうか…」

「ハァ?」


自分でもよく分からないのだ。けれど何故か一本の竹刀を握ると違和感がある。


(振り方が悪いのかな?)


うーん、と首を捻っていると銀時と晋助がまた打ち合いを開始したから小太郎と一緒にそれを見ていた。

やっぱり銀時と晋助は2人とも強い。

まだ幼いけれど、その辺の年上の者など相手にならないほどに。

けれど2人とも松陽先生に習っているというのに彼らの剣の型は対極的だ。

小太郎が言うには晋助は先生の教えを忠実に体に叩き込んでいているため、隙のない、鮮やかな剣裁き。

それに対して銀時は先生に学んだことを基本にはしているのだがそこに自分の動きも織り交ぜているのか、いわゆる我流というやつやしい。


スパァァン!


「あ」


銀ちゃんが晋助の竹刀を弾き飛ばした。
今回は銀ちゃんの勝ちらしい。

「〜〜っ、ちくしょ〜!!」

「へんっ!高杉が俺に勝とうなんて百年はやいっての」

「っだとコラ!」

「2人共いきなりいがみ合わないの!」


そう言って晋助に飛ばされた竹刀を渡そうと自分の竹刀をもったままもう1つ竹刀を握った時だった。


「ん、?」


なんだろう、すごくしっくりくる。まるで竹刀が手にすいついているような…。

そう思ってブンと竹刀を降ってみると、


(…降りやすい、かも)


一本の竹刀を握って居るときよりも動きやすいし、なにより手に竹刀が馴染む。

そのままブンブン降っていると晋助が近づいてきた。


「おい紫苑、俺の竹刀…ってお前、いつもよか剣の振り良くなってんじゃねーか?………型はいつもと変わらずデタラメで見るも無残だけど」

「ほんと?!けどいつもと変わらずデタラメって傷つくんですけど」

「本当にいつものことなんだから仕方ねぇだろ?てかお前いつ二刀流なんてもん知ったんだよ」

「え…、にとう…なに?」

「あぁ?同時に刀2本使う型だよ」

「へえ!そんなのがあるんだ!」


(知らない…?…もしかしてコイツ…)


「……、おい銀時。お前次は紫苑と手合わせしろ」

「「はあ?!」」


それには私だけでなく銀ちゃんも驚いた。だって当たり前だ。銀ちゃんと私じゃ手合わせにすらならない。


「紫苑とやっても打ち合いになんねーじゃねぇか!!」

「次は大丈夫だろ。…紫苑、」

「?」

「俺の竹刀貸してやるからそのまま2本使って打ち合え」

「いやいやいや、むりだよ!さっきは適当に振り回してただけだし構えだって全然分かんないもん!」

「今はそんなんいいからお前が動きたいように動け」

「だから無理なもんは無理…」

「いいから行ってこいっつーの」


そう言った晋助はごねる私を無視するかのようにどんと背中を押した。


「、うっわ!」


いきなり押された私は当然よろめく。


「もー晋助!無理だっ、て」


無理だってば、と言おうとした私は途中で言葉をつぐんだ。
なぜならば目の前の晋助が控えめに、しかし楽しそうに微笑んでいたからだ。


「俺が大丈夫っつったら大丈夫なんだよ。いいから行ってこい」


何かとてもワクワクしているような、そんな晋助は珍しくて、とにかく私はびっくりした。

他の2人もそうだったと思う。

そんな晋助を見て何か察したのか銀時が先にスッと竹刀を構える。


「……よし、いくぜ。紫苑」

「う、ん」

「じゃあ俺が合図をとろう。2人とも、いいか?」


私と銀ちゃんが頷く。

この時はまったく分からなかったんだ。
どうして晋助がいきなりこんな無茶を言い出したかなんて。

この瞬間から私の人生が大きく変わっていくなんて。


「用意……はじめ!!」


バシィ!!!!!


でも、確かに私はここから始まった。


きみとはじ


蝶が生まれる、5秒前の出来事。




 
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