紫苑が村塾に来てから1ヵ月。

俺や高杉と初めて話した日を境に紫苑はどんどんここにも慣れて、もう最初の面影すら無くなってきていた頃。

俺、銀時、高杉、紫苑はいつも一緒に居るのが当たり前のようになっていた。

授業も終わった昼下がりの縁側には、すでにそのうちの3人が来ていて、しばらくしてからもう1人が来た。

遅れてくるのはいつも銀時。

一斉に銀時に集まる視線は俺と紫苑と高杉のもの。


「銀ちゃん遅いよー!」

「いつまで待たせるつもりだ天パ」

「武士たるもの、時間くらい守らねばならぬぞ銀時」

「わりぃな紫苑。ってか天パは関係ねーだろ、チビ杉」

「上等だ天パコラァ!!その喧嘩買ってやろーじゃねぇか!」


騒ぎだした高杉が銀時に絡んでいるのを見て紫苑が笑う。


(本当に、よく笑うようになったな…)


表情が無いも同然だった頃が嘘のように、いまの紫苑は素直に感情を顔に出す。

少し前に紫苑から聞いた、ここに来るまえの紫苑のこと。

その状況がきっとあの頃の紫苑を作っていただけであって、本来の彼女自身はもともとこんな少女だったのだと思う。


紫苑が笑えばまわりも笑う。


いつの間にか紫苑は俺たちの妹のような存在になっていて、塾生みんなに愛されていた。

そして紫苑も俺たちのことを兄のように慕ってくれている。

ただ2人だけ、紫苑を"妹"だとは思ってないやつが居るようだが…。


「銀ちゃん!晋助!そろそろ始めようよー!!」

「ハァ、ハァ、し、仕方ねぇ。今日のところは紫苑に免じて許してやるぜ、……次またチビ杉だとかふざけたことぬかしやがったら容赦しねぇーからな、」

「あァ?それはコッチのセリフだコノヤロー。……天パ天パってうるせえその口、次こそ黙らせてやらぁ!」

「よし、話は終わったか?2人とも。お前らは紫苑と先生の言うことしか聞こうとせんからこっちは大変なんだぞ、まったく」


俺は大きくため息をついてから、もう一度2人を見て言う。


「じゃあ始めようか」


そうして二人からかえってきた返事はもちろん、


「「ってヅラがしきってんじゃねーよゴルァァア!!」」

「ぐほォ!!」

「あああ!こたろーっ!」


文句とアッパーカットだった。


ああ、きれいなお花畑が……ここは天国というやつか?ならばきっと目の前にいる紫苑は天使なのだろう。


「紫苑〜…!」

「ヅラァァ!なにどさくさに紛れて紫苑に抱きつこうとしてんだっ」

「てめぇ、そんなにトドメさされてぇのか?あァ?」


…それにひきかえこいつ等2人はさながら悪魔だな。


「もう!銀ちゃんも晋助も、あんまり小太郎をいじめちゃ駄目だよ!それに今から剣術の練習するんでしょ?はやく始めよーよっ」


うん、やはり俺の目は間違っていない。紫苑は天使だ間違いない。


「しかたねぇなあ」

「チッ、…はじめっぞ」


そして4人で竹刀を握り青空の下、庭にとびだした。

その様子を部屋の中で微笑んで見守っている人物には誰も気がつかないままに。


「ふふ、やはり思った通りでしたね」



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「ねえ、せんせい」

「どうしました?」

「わたし、みんなと仲良くできる自信がないです」

「おや、どうしてですか?」

「だってわたし、人と話したことなんてほとんどないし……」

「はい」

「それに、人が多いのは苦手で…。
まだ、怖い、です」

「そうですか…、でもきっと大丈夫ですよ」

「?」

「ここには紫苑を放っておけない子がちゃんと居るはずですから。…それに、無理をして自分を作る必要はありません。分からない時にはちゃんと戸惑ってもいいんですよ」

「……っ、…先生ありがとう。私、私すこし楽しみになってきました!
最初は無理かもしれないけど…。早く人が多いのにも慣れて先生が安心できるようにします!」

「ふふ、…ありがとうございます。楽しみにしていますね?」


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紫苑が初めて授業出る前日に私に話したこと。

まだ来たばかりで誰よりも不安なのは紫苑でしょうに、私のことを気遣ってくれるとは驚きましたが、この子はこういう優しい子なんだとあの時実感しました。

そして紫苑の言うとおり、最初は慣れない環境に戸惑っていたようでしたが、数日後楽しそうに銀時たちの話をする紫苑を見て、やはりそうだったとわたしも嬉しくなりました。

紫苑と同じくらいに優しいあの3人は紫苑を笑顔にしてくれた、と。

目の前の庭で、打ち合っている4人はほんとうに楽しそうな顔をしていてその中でもひときわ幸せそうに笑う少女。

その顔を見て、まわりもまた笑う。


えがおのれらは


まるで4人の天使のようで、どうかずっとその笑顔のままで居てほしい、と、そう願わずにはいられないのです。




 
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