隣を見れば当たり前のように微笑んでいるあいつを見るのが好きだった。
微笑む、というのには少し語彙があるのかもしれない。本当に楽しそうに笑っているその姿は微笑むというにはあまりにもあどけないし、子供らしかった。
大口を開けて笑う彼女は、どこまでも俺の知っている彼女だった。
「帰ろう、晋助」
こいつが笑わなくなったのはいつからだったろうか。
こいつの目に何も映らなくなったのは、
「お前…、もっと上手くやれるだろ」
「なにを?」
「………返り血。顔も服もぐちゃぐちゃじゃねえか」
「ああ、これはいいの」
「いいって…」
「いいの」
俺が知ってるこいつはこんな言葉を吐くような人間じゃないし、何よりこの無表情はなんだ。
こいつは誰だ。
「私はもう晋助がおもってるよりずっと汚い生き物だから、」
「……うるせえ」
「これ以上汚れようがないのに今更綺麗になんてできないでしょ」
「黙れよ、」
「私は…」
「あいつの口でふざけたこと抜かしてんじゃねえ、叩っ斬るぞ…っ」
前のこいつなら今の俺を見て何と言っただろうか。まっすぐにじっと俺に向けられる目は何の感情も含まれてはいないようで、ただただ静寂があたりを包みこむ。
「…ごめんね」
それが何に対しての謝罪なのかなんて、聞きたくもなかった。
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