「幸せだった」そう言えた頃の記憶が俺の心を蝕んでゆく。
いつまでたっても色褪せないこの悲しみを背負って、俺はどこまで生きるのか。
いつか疲れて足を止めた時、その悲しみのほかに俺のそばに在るものは果たして何か。
けれど戦争を終えてからというもの、そんなことを想うことすらなくなった。答えを求めることなど、もうとうの昔に辞めてしまった。
結局は不毛の自問自答、先のことなど分かりはしない。
「晋助はそれが悲しいの?未来が分からないのはみんないっしょ、不安におもう必要はないのに」
それは違うんじゃないかと思う。
悲しいとか不安とかそんなんじゃねえ。
「俺は先の未来に希望を持ちてぇわけじゃねえ。んなもんとうの昔に無くしちまってんだからな」
「…先生はたしかにもういないよ。私たちが先生と過ごした記憶が晋助にとってそれほど大事だったってのは分かる。私だってそうだもん。でもだからってそれは私たちが未来を諦めていい理由にはならない。晋助は逃げてるだけだよ」
「先生は俺の全てだった。俺に生き方を教えてくれた人だ。そんなあの人を奪った今の世なんざいらねぇよ。希望なんてもんは死んだ」
「…、私には晋助が分からない」
「くく…」
「晋助はなにがしたいの?」
「さあな、……ただ俺ァ」
ああそうだ、俺はくだらねぇ夢を見るのにはもう疲れた。ただそれだけだ。
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