鬼が出ると聞いて来てみれば、君たちがそう?……また随分と、かわいい鬼がいたものですね。
「…な」
なに、と言い切るまえに銀色の子が自分の頭にのった手をはじいてわたしを庇うように立ちふさがった。
抱えていた大きな刀がざらついた音とたてながら鞘から抜かれてく。
突然現れた男のひとは口元で優しく弧を描いて言った。
「それも屍から剥ぎ取ったのですか」
その子はなんにも答えなかった。
たださっきとは別人みたいに、ぎらぎら鈍く光る赤色が、わたしの目に焼き付いた。
おびえてるわけじゃないと思う。その子が刀を抜いたのはそんな理由じゃなくて、ただ今までそうしてきたように、そうしただけなんじゃないかな。
なんの躊躇もなかったのが、その証拠。
なのに、目の前のおとなはやっぱり微笑んでる。刀を抜かれて、睨まれているのに。どうして。
「きみたちは兄妹ですか?」
「……………」
「…いまさっき会ったの」
「おい!」
「おや、そうでしたか。すみません、ひとみの色がよく似ていたので勘違いをしてしまいました」
その子が責めるような声で怒鳴ったけど、ごめんね、いまは気にならない。
だって私の目の色に気がついて、気味悪がってはいないおとなは初めてだから。
このひとはふしぎなひと。
いままで出会ってきたどんな人間より、ふしぎなひと。
「あなたは嫌じゃないの?」
「何をでしょうか」
「わたし今あなたに話しかけてるよ」
「はい、そうですね」
「………?」
「どうかしましたか?」
その大人は笑顔のまま、だけどふしぎそうにこてんと首をかしげた。
でもきっとわたしのほうが分からない。
どうしてこの大人はこんなに柔らかい笑顔をわたしなんかに向けるんだろう。
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