「……あれ?」

目が覚めるとあたりには知らない光景が広がっていた。
すうと吸い込んだ空気は古びた廃寺の埃っぽい匂いでなく新しい畳のいい匂いがする。
まだ覚醒しきっていない頭の片隅で懐かしいなと呟いた。

けれど、それもほんのつかの間のこと。

起き上がって辺りを見渡してみると、寝る前までは確かにあったはずの刀がどこにも見当たらないことに私は酷く狼狽した。

「っ、どこ…?!」

戦争の真っ只中、何があっても手放さなかった自分の刀が手元にないという事実は、私にとんでもないほどの恐怖を植えつけた。
背中に戦慄が走る。意識より先に立ち上がり、この部屋から出ようと駆けだしたその瞬間だった。

「名前!何やってんだ!」
「っ、ぎん………あ」

ふいに呼ばれた私の名前。その声を発した人物の存在にひどく安心した。
それと同時にぎくりと鳴る心。

「…そっ、か。そうだったね」
「お前また…」
「うん、ごめんね」

私の目に映ったのは白い陣羽織を羽織った銀時じゃあなくて、裾に青の紋様が入った着流しを着くずして着ている銀時の姿。

ああまたやってしまったと思った。
寝起きに先ほどのような行動をとってしまうのはいつからだったか。
そのたびに苦しそうに顔を歪める銀時を見ると心が痛くなる。

頭では理解しているはずなのに、私の心はまだ戦渦の中にあるらしい。

刀ならとうの昔に己の手でへし折った。それでも時たま必死になってそれを求めている私。

「ねえ銀時、…わたし、」
「あー、待て。もういい」
「………」
「めんどくせーし。…な?もうあれだ、ほら。夜だし。寝ようや」

ほらまただ。こうやっていつも私の言葉は途中で遮られる。私が無理に続きを言おうとしないのは怖いから。
ただ怖いから。それだけ。

(私はここに居てもいいのかな)

銀時と一緒に生きている。今の平穏な生活を私は好きだと思うのに。どうして。自分でも分からない。私が欲しかったものとは一体何だったんだろう。

少なくとも今現在の私の魂が求めているものは平穏とは程遠い何かなんだろうな、なんて。



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