みんなが鬼だと言うあの人。
名前を坂田銀時さんという。

私はここで住み込みの女中をしていて皆さんの身の回りのお世話をさせてもらっている身だから、たくさんの方にお話しを聞く機会があるのだけど。

戦から帰ってきたたくさんの志士さんたちが口々に呟くのはいつも似たような言葉。

「あの人はまるで鬼のようだ」

それを誇らしげに言う人もいれば顔を青くしてそう言う人もいる。
だけど私にはその言葉の意味がよく分からない。だって彼は、銀時さんは、

「たでーまー」
「おかえりなさい銀時さん」
「お、出迎えたァ嬉しいね」
「桂さんも高杉さんも坂本さんも、おかえりなさい!」
「ただいま、いつもすまんな」
「アッハッハ!こがぁめんこいおなごが出迎えてくれるのはわしらの陣くらいぜお」
「なあおい、今夜一発…」
「だァァア!高杉てめえ原始人でももっとマシな口説き文句言えるぞ!」
「るっせーな、焦ってんのか」
「違うわボケ!ただこいつはそうゆーのに免疫ねえから…」
「つまり焦ってんだろ」
「だから違ぇぇえぇ!」

皆さんと何も変わらない、賑やかでお優しい方だと思うから。

桂さんたちに囲まれて笑う彼の姿からは鬼なんて言葉はあまりにも相応しない。

なのにどうしてほかの皆さんは彼をそう呼ぶのか、桂さんたちだってとてもお強いと聞くのに、なぜ銀時さんだけにそのような渾名がついたのか。

戦場を知らない私はそんなことを知る由もなかった。

「………っ」
「何故こんな所に人間が…」
「こいつは女だ。侍ではない」
「いいや、この付近には侍どもの拠点があるはず。何か知っているかもしれん、連れていけ」

ある日、いつものように薬草になるものをと拠点から少し離れた丘に向かっていた時のこと。思わぬところで天人と呼ばれる生き物に出くわした私は彼らを目の前に震えることしかできなかった。
助けを呼ぶことすらできなくて、口から零れ落ちるのはあ、とかう、とか言葉にならない音たちばかり。

ついに腕を掴まれて引っ張られた矢先、恐怖から溢れる涙で濡れた私の瞳に映ったのは、白い陣羽織を翻した彼だった。

「…その薄汚え手、今すぐ離しやがれ」


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