「…いない?」
「ああ、どこにもいないんだ。それに昨夜からあいつの姿を見た者は誰一人としていない、どうやらその時にはもう…」
「っ、探さねえと…!」
「待て銀時!」


そんな桂の言葉の言葉をも無視して銀時は外へ駆け出そうとする。が、目の前に立ちふさがった高杉によってその足は止められた。


「何やってんだ高杉!早くしねえと…」
「止めとけ」
「……あ?」
「止めとけってんだ」
「………どけ」
「時間の無駄だって言ってんだよ。どうせもう見つからねえ」
「どけよ!!」
「…銀時、あいつは捕まったわけでも道に迷ったわけでもないんだ」
「だから何だってってんだ」
「………あの子は自分の足でここを出たっちゅうことじゃ。わしらにそれを止める権利はないき」
「…っ、てめえはいいのかよ高杉!」
「……何がだ」
「何がってあいつはてめえの…!」
「あいつは俺に何も言わなかった」
「………」
「…つまりそういうことだろ」


そう言って自嘲するように笑う高杉の表情は歪んでいて、むしろ泣いているようにも見えた。そんな彼を見た三人は思わず言葉を失う。
そうしている内に続く言葉を落としたのは高杉だった。


「あいつは逃げたんだ、俺がとやかく言う必要はねえよ。……それにもう、なんの関係もねえ」
「っ、てめえが一番分かってんじゃねえのかよ?!あいつが何も言わずに俺たちから離れるわけがねえ…!」
「あいつが判断したんだろ。俺たちに伝える義理なんてねぇんだってな」
「…………」
「あいつにとってはその程度だったんだ。おまえ等のことも、…俺のこともな」


そう吐き捨てて踵を返した高杉は誰の言葉にも応えぬままに、部屋から姿を消した。
あとに残った三人もそれきり口を開かない。悲しみの色を帯びた哀愁がその場を包みこんでゆく。


(でもこれで良かったのかもしれねぇ)


そう思ったのはおそらく銀時だけではない、桂も坂本も、たった今独り廊下を歩きながら歯を食いしばって顔を歪めている高杉も、きっと心のどこかでは安心していた。

これでもう彼女が傷つくことも、命が危険にさらされることもないのだから。
もう一度またあの笑顔を見ることのできる日が来るかもしれないのだから。

ただ彼女を救う唯一の手立てが自分たちとの別れだったという事実がどうしても切なかった。
それだけの話。


そうして朝を迎えた彼ら四人が、情報収集を任せている仲間から信じられない知らせを受けるまで、あと数刻。


「昨夜未明に南に配置されていた天人の陣営にたった一人の侍が乗り込んだそうです、一夜のうちにそこに待機していた天人の約半数が死亡。乗り込んだ侍は疲れ果て座り込んだ後に自害とのこと」


高杉がこの戦争から去る、十日前の出来事であった。

手を伸ばす暇さえなかった。
彼女は今、すでにこの世界には居ない。


「どうしてこうなった」


誰かの嘆きはそのまま、怒りと悲しみを織り交ぜて世界へとぶつけられる。
ただ笑ってほしかった。隣にいてほしかった。本当にそれだけだった。それだけなのに、


(だから全部が憎い)


なにもかもを奪い去っていくのがこの世界の有り様だというならば、もういっそのこと全てを壊してしまおうと。
口角を上げて笑みを作るその男は笑うことを忘れてしまった。

そうして戦争は集結し、以前とは様変わりした江戸の町は新たに動き出した。

まだ悲しいばかりの彼が新たな出会いを迎えるまで、あと数ヶ月。




back

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -