突然どさりと何か重たいものが落ちたような音を耳にしてはっとした。
要らない感覚を全て捨てて刀を降り続けていた私が久方ぶりに手にしたそれ。
何てことはない、私自身が両膝をついた音だった。
そしてそれが私にとっての終わりの合図だったというだけのこと。
(足、動かない…。立てない)
不思議と絶望なんてものはなくて、ただ漠然とああ終わったんだなあなんてことを思っていた。
騒がしいまわりの声もほとんど耳に入らない。じりじりと取り囲んでくる奴らの方に顔を向けると、驚いて動きを止めた奴らが目に入った。
すでに笑んでいた頬が更に深みを増していくのを感じる。
久しぶりに笑えたような気がした。
「……悪いね、私なんかのちっぽけな魂だけど、あんたたちにはやれないや」
立ち上がれもしない両足。刀を持つ腕は震えているし背中なんかは傷だらけ。返り血に濡れた陣羽織はやけに重たくて、冷たくて。
こんなに汚い私だけど。
「わたしの持つ全部が全部、晋助の…、晋助だけのものだから」
最後の力を振り絞って刀を逆さに持ち替えた私は首にそれをあてがい、きっと。
やっぱり笑っていたと思う。
「だから、ごめんね」
そして思い切り刀を引いたその後、首に生ぬるい感触を感じながらふいに脳裏に浮かんだあいつの顔。
思わず緩めてしまった頬といつの間にかそこを伝う涙。
嗚呼、私は私の魂を無くしてなんかなかった。私の生きる意味は確かにそこに在った。
彼の隣りで生きたかった、ただそれだけ。たったそれだけよ。
此処で私は消えるけど、その事実だけは消えたりなんかしない。
「お前が笑ってっとなんか安心する」
幼い晋助がそう言って笑った。
それを見た私も笑って言った。
(ありがとう、ばいばい)
今度こそ、きちんと笑えてたらいいな。
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