「名前」
「………」
「いっちょ前にシカトか?こっち向け」
「やだ」
「………」


知ってる。晋助がいきなり名前を呼んだ時なんてろくなことがないってことくらい。昔からそうだ、名前名前と名を呼んでは様々な仕事を押しつけられた。

昨日なんていきなり呼び出されたかと思ったら酌しろだなんだとこき使われ、しかもこの野郎いくら酒に強いからって明け方まで飲み暮れやがっておかげで私の睡眠時間は二時間弱。

だから今朝起きた時に決めたんだ。今日こそはもう絶対に晋助の言うとおりには動かない。


「どうせまた面倒ごと押しつけるつもりでしょ、そうはいくか」
「いつ俺がそんなもん押しつけたよ。いいからはなし聞けや」
「あーあーあーあー聞こえないー」
「いい加減にしねえと犯すぞ」
「うっわあ、何とんでもないことサラッと言ってんの」
「昔はてめぇも素直で今よりもちったあ可愛げがあったのになァ?」
「晋助こそ昔はもっと純粋で優しかったよ。少なくとも今みたいな発言はしなかったし」
「ああ?…つーかいい加減こっち向いたらどうだ。簡単に背中見せてんじゃねえよ」


…いきなりなに言ってんだか。ここは戦場でも何でもないんだから後ろを気にする必要なんかないのに。
晋助はいつも気を張りすぎなんだよ。
すこしは気を休める時間も必要だと思うんだけどな。


「……晋助さあ」
「なんだ」
「なんてゆうか、たまには息抜きでもしなよね」
「息抜き?」
「ん、じゃないと人生疲れちゃうよ。私達ただでさえ生きにくい生き方してんだから」
「…………」
「ほら、自分がしたいと思うこととか我慢しないでさ」
「…………」
「鬼兵隊の総督もたまにはお休みしていいんじゃないの?」


晋助の顔は相変わらず見えなくて、背中合わせに会話をする私達。なんだか少し照れ臭かったからこの距離が丁度良かった。面と向かってなんてきっと言えない。
そして少しだけ間をおいて、「そうか」と小さく答えた晋助につい顔がほころんだ。けどそれもつかの間のこと。

ぐんと肩を引かれる感覚。次に見えたのは部屋の天井と、やっと見えた晋助の姿だった。彼の唇はゆうるりと弧を描いている。


「?、なにしてんの」
「お前が言ったんだろーが」
「は?」
「我慢すんなって」
「は?!そーゆう意味じゃな、」
「るっせえ、さっき振り向かなかったてめーが悪い」
「それどーゆう根拠!」
「…さあな」
「さあなって意味分か、っ…、ふ」


う、わ。なんか懐かしいな。こんなにふわふわした雰囲気の晋助。いつぶりだろう。あれ?ふわふわしてるのは私の気分?まあ、今はどっちでもいいか。

柄にもなく幸せだなあなんて、そう思っちゃった今だけは。


せなかあわせ


「あの時振り向いてたら、キスひとつで終わってたかもしれねーのになァ」
「……むかつく」


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