いたい、いたい

胸のあたりがずきずきと疼く。どうしてこんなにも息苦しいのか、分からないままただただ走った。それこそ死に物狂いで、まっすぐに。頬を打つ雨はまるで俺の邪魔をしているようにも思えて、ああどうしても俺はこの世界に嫌われているんだなと心の隅でつぶやいた。


「銀時!今すぐ名前の方に迎え!」


地面は雨でぬかるんでいるし、そればかりか伏した骸が邪魔をしてまともにスピードも出せない。ちくしょう、なんでだ。


「何かあったのか?!」
「……、あいつらの部隊が…っ」



なあ、


「おい名前」
「銀ちゃん?どしたの」
「……、やっぱいー」
「?………あ!またあのこと?」
「………」
「…銀ちゃん以外と心配性なんだなあ」
「別にそんなんじゃねーし!」
「ふふー、忘れてないよ。いつもの約束のことでしょ?」



無理をしないこと、生き残ること、帰ってきたときお互いに"ただいま"を言うこと。


「約束しただろ」


なのに部隊が殲滅?なにやってんだよお前は。またどっかではぐれて迷子になってんじゃねえだろうな。そうなんだろ?だってお前が約束破るわけがねえ、お前が死ぬわけ、ねぇもんな。


「今から迎えにいくから、っ」


どっかで迷ってんなら今すぐ俺が見つけ出してやるから、だから頼む。頼むから、もう一度だけでいいから。

俺に"ただいま"を言わせてくれよ。



***



いたい、いたい

足も腕も喉もぜんぶ、身体中から痛みを感じる。生暖かいものに濡れたわたしの体は雨に洗われてゆく。重たいまぶたをうっすらと開き、酸素を肺に取り込むけれど、そんな行為すらも苦痛をともなう。


「……ぎ、………」


呼び声はきっともう届かない。ここからずっと向こうで今もいつものように泣きそうな顔をして刀を振っている彼に、伝えきれていないことがまだ私にはたくさんあるのに。

約束、したのに。


「……ごめ、ん、…ごめ、」


銀ちゃんが約束をやぶるひとが大嫌いなことは知ってるよ。それでもね、私はあなたのことが好きで好きでたまらないんだ。
今だってほら、息をするのも辛いってゆうのに涙はどうしても止まらない。


「………、……」


こんな私のためにもきっと、銀ちゃんは悲しんでしまうから。だから願わくば、彼の目に私の姿が映りませんように。

そんなことを願いながら、本当は。
本当はね。


「〜…、っ……」


もう君に会えないのかと思うだけで、こんなにさみしいの。
くるしくて、もう一度でいいからあの綺麗な銀髪を見たいと思うの。声が聞きたいと思うの。抱きしめられたい。だから生きたい、と、わたしはあがくの。


落ちる瞼の向こう側


わたしの名を呼ぶきみの声にひどく安堵したわたしはやっぱりまだ弱虫だね。


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