薄暗い空がわたしの上にひろがって、鈍色の雲が流れている。
村塾の縁側からそれを見上げると、胸が嫌などきどきを感じた。
こんな日はきっと雨がふる。


「せんせい雨が…、あ」


無性に先生の近くにいたくて名前を呼んでんでみたけれど。ああそうだ、きょうは先生も銀時も町に降りていて夕方になるまで帰ってこない。
一緒に行こうと言ってくれた2人にちゃんと留守番をしているから大丈夫だと答えたのはわたしだった。


雨はあんまり好きじゃない。
たまにごろごろと唸りながら、かみなり様を呼ぶから。かみなり様はおへそをとっていっちゃうんだぞって前に銀ちゃんが言っていたから。おへそが無くなっちゃったらどうなるかなんて分からないけど、それを聞いてからかみなり様がとても怖いの。

とうとう雨がぽつぽつと地面を濡らしだしたのをみて、どうかはやく帰ってきてねと願い見上げた空は、やっぱり重たい鈍色をしていた。



***



しとしとと地面を濡らす雨はやむ様子もなく、次々と地面に水たまりを作ってゆく。
遠くの方でまた子ちゃんが武市さんに向けて乱射でもしているのか、雨音に混じって発砲音が聞こえた。
ふしぎと頬が緩んだのが自分でもわかる、ひとりではないということを感じさせてくれるからか。

久方ぶりに港につけた船の船室でわたしは一人窓の外を眺めながら小さくそんなことを思っていた。


「何かおもしれぇもんでもあんのか」


ふいに後ろから声がした。
すぐそば、耳もとで。


「雨なんざ珍しくもねえだろ」
「まあね、でもちょっと懐かしくて」
「くく、…確かに。おまえが雷にビビってぴーぴー泣いてた頃思い出すなァ」
「ななな泣いてない」
「うそつけ」
「………」


にやにやと私を見つめてくる晋助になにも言い返せずそっぽを向くしかないのは、晋助が言ったその時に彼本人が目の前に居たからだ。


「……そーいえば」
「なんだ?」
「なんで晋助はあの日村塾に来たの?」
「…………」
「あの日って塾は休みだったよね?だから先生も銀時も村塾に居なかったわけだし…」
「……さあ、覚えてねえな」
「ええー…」
「暇だったんじゃねーのか」
「はは、晋助ならありえる」
「どういう意味だ?」
「雷降ってる中、暇だからって理由でびしょ濡れになってまでわざわざ村塾に走ってきた謎さとか?」
「てめえバカにしてんのか」
「なぜかその日わたしが一人だってこと知ってたとこととか?」
「…………」
「………雨がやむまで、ずっとわたしの隣に居てくれたとことか」

「確かにぜんぶ晋助らしいね」


いつか、いつだったか。
雨と雷の音に怯え泣いていたのは私で。
そんな中とつぜん村塾に駆け込んで来たのは晋助で。
私がびっくりして泣き止んだのをみて、晋助は私の泣き顔をバカにして笑った。


「…んなこと覚えてたのかよ」
「忘れないよ。なんせその日から私、雨好きになったんだから」
「まだ雷が鳴りゃビビりあがるくせに」
「…雷は嫌いだもん。文句ある?」
「………まさかまだへそ盗られるだなんだ信じてるわけじゃあるめぇよな」
「んなわけあるか!」


雷はきらい。大きな音にびっくりさせられるから。だけど雨が好きになったのは変だけど、そのおかげでもあるの。

だって雨が降れば晋助がそばにいてくれるから。


「雨やまないね」
「あ?なんで嬉しそうなんだよ」
「んー、べつにい」


雨といっしょに雷が降ってくるかもしれないと思う不安も、となりにいてくれる晋助が消してくれるからもう怖くはないんだよ。

雨が地面を叩く。優しい音が聞こえた。



あまやどり


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