「銀ちゃんお風呂あがったよー」
「おー」
「神楽ちゃんは?」
「もう寝てる」
「そっかあ、じゃあはい」
「……はいじゃねえよ」


ため息まじりに手に持っていたジャンプから目を離してみると、そこには寝間着に着替えた名前が髪から水滴を滴らせながら俺に向けてタオルを差し出しているのが見えた。


「てめーまた当たり前みてえに…」
「銀ちゃん髪ふいて?」
「だからそれくらい自分でやれっつの!お前はいったい何歳だコノヤロー」
「だって自分でやったらぐしゃぐしゃになっちゃうんだもん!」
「もんじゃねーよ!んなこと言っても俺はぜんぜんかっ、可愛いとか思わねーんだからな!」
「何言ってんの?銀ちゃん」
「ああああ…、とにかく俺はジャンプ読むのに忙しいからてめーのことはてめーでやれ!」
「なんで!いつもふいてくれるのに!」


俺がジャンプに視線を戻すといじわるだとかだからモテないんだとかだから天パなんだなんて声が飛んできた。
え、天パ関係なくね?

けど俺がそんな声にも答えず黙ったままでいると、暫くしてようやく渋々といった感じで名前が向かいのソファーに腰をおろした。

やがてごしごしとタオルで髪を吹き始めた名前は見るからにしょんぼりとしているのが分かる。思わず手を伸ばしそうになった自分を何とか制して知らんぷりを決め込んだ。


(…ここでこいつを甘やかしちゃいけねー。またヅラに文句言われるのはごめんだからな)


それは最近気づいたことだ。幼い頃から共に過ごしてきた名残もあって、俺は自分でも気づかない内に名前の世話を焼きすぎているらしい。

この間いつものように俺がこいつの髪をふいてやっていると、丁度その時万事屋に上がり込んできたヅラはその光景を見るや否や俺に向かってだらだらと説教を始めやがった。

お前は昔から名前に対して甘すぎるとか、だから名前は今でも銀時銀時とお前ばかりを頼るんだとか。

その時はんなもん知るかと一蹴りにしてやったがよくよく考えてみれば確かに奴の言うとおり、名前はもう昔と違って子供じゃない。俺とさほど歳も変わらない大人だ。
だからこれからは自分のことはしっかりと自分にやらせようと決めたのだ。

そんなことを考えていると、ふいに耳に飛び込んできた名前の声。


「…よし、おわったー!」
「……」
「そろそろわたしも寝ようかなー」
「……待て待て待て待て」
「え?」
「てめーは俺の布団をびっしょびしょにする気かァァア!」


きょとんと目をまあるくする名前の髪は水が滴るまではないもののまだまだびしょ濡れでとても布団に横になれる状態ではない。
このまま寝かせられるはずがない。第一、風邪ひいちまう。


「なんでちゃんと乾かさねーんだよ!」
「ちゃんとふいたよ!」
「……あのさァ名前さん、ドライヤーって知ってる?」
「いつも銀ちゃんがしてくれるやつ」
「そうだよ!それ使えよ!」
「やー…、べつにいい」
「よくねえからわざわざ言ってんですけどォォォ!」


なんでこいつはこう!いつも自分のことを適当に扱うんだ!
いつも何も考えてねーみたいにへらへら笑ってるくせに自分が辛い時とかは顔にださねえ。前に風邪ひいた時だってこいつがぶっ倒れるまで誰もそれに気づけなかった。

そんな名前だから俺がそばに居てやらねーとって、幼い頃からそう心がけてきた結果が現状を生んでいるんだけど。

一方そんな俺の心中も知らぬまま湿った髪を揺らして「おやすみー銀ちゃん」なんてへらりと笑う名前に俺はもう何も言えなくて。
寝室へと続く襖に手をかけた名前を見て、即座に俺がドライヤーを洗面台まで取りに行ったのは言うまでもない。


あったか熱度


「ぶわー!風きもちいい!」
「………こんなんも面倒くさがるとか銀さんお前の将来が心配だわ」
「えー?ちがうよ。面倒くさいわけじゃないよ」
「あ?」
「銀ちゃんが髪乾かしてくれるのがすきなんだ」
「………」
「銀ちゃんだからいーんだよ」
「………あっそ」


そう言う名前がドライヤーの風に髪を踊らせながらにっこりと微笑む。……柄にもなくうれしーとか、べつに思っちゃいねーけど。

髪を乾かすふりをしてそっと頭を撫でてみたのはここだけのはなし。


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