「お前は危なっかしいから、だからめんどくせーけど連れてってやるよ」

ねえ晋助。拗ねた顔をしてそう言ったあんたは、いつも私の手を引っ張ってくれてたね。

小さい頃も、大きくなってからも。

ぶっきらぼうで、でも本当は誰よりも周りをよく見ていて、優しさに不器用なあんたはきっとどんだけ深い闇の中でも私の道しるべになってくれる。私の手を引いていってくれる。

私は勝手にそう信じて、ずっと晋助のそばにいた。晋助が居たから、戦場に立つことができたんだと思う。


「俺が傍にいてやる。ぜってえ一人なんかにゃしねえ、…だから泣くなよ」


私が初陣から帰ってきたその日。拠点の隅で泣いていた私にそういったのは晋助だった。同時に強く抱きしめてくれたのも、晋助だ。

あの時、私の心が迷子になることがなかったのはきっとそのおかげだと思うの。

ねえ晋助、わかる?
あんたはもうずいぶんと私のことを救ってくれていたんだよ。
私の道を照らしてくれていたんだよ。

だけど戦争が終わりに向かっていけばいくほど、あんたの瞳は憎悪で染まっていったね。


「俺はもう許せねえんだ。この世界の全部が憎くて、ぶっ壊してやりたくてたまんねえ。お前もそう思うだろ?」
「わ、私だって憎いよ!……でも…」
「…………でも?」
「……私は…それでも…」


晋助の隻眼がぎろりと私に向けられる。
私は狂気の籠もったその瞳を見て恐怖しか感じない私自身を呪いたくなった。

あれほど彼の瞳に自分の姿が映るたび、幸せを感じていたは私なのに。


「…お前も理解できねえってか」
「っ、ちが…!」
「だけどな、わりぃがお前の意見なんざどうでもいいんだ」
「それ、どうゆう」
「さあな。お前は黙って着いて来てりゃいいんだよ」


その言葉と同時に強く握られた手首に鋭い痛みが走った。
ああ、もういつかみたいに優しく手を引いてくれることはないんだね。


「や…っ、晋助!痛いよ!」
「うるせえ黙りやがれ」
「何やってんだよ高杉!」


涙を我慢するのにももう限界で。私が泣き出しそうになってしまったその時、耳に飛び込んできたのは銀時の声だった。


「…っ、その手…離せよ」
「…銀時、俺ァこの戦争抜けるぜ」
「…!」
「ようやく俺にも俺のするべきことってのが見えきたんでなァ」
「…じゃあ何で名前の手引いてんだ」
「決まってんだろ。そのためにゃあこいつが要ると思ったからだ」
「だからその名前が嫌がってんのも分かんねえのかよ!」
「嫌がる?んなわけねえだろ。こいつは俺のもんだ。嫌がるわけがねえ」


しんすけ、しんすけ。どうしてあんたはそんなに悲しそうに笑うの?
そんな顔で笑わないで。あんたはもっと優しく笑うひとでしょう?
今の晋助はまるでしんすけじゃないよ。


「高杉…、わりぃが今のてめえにゃ名前は渡せねえ」
「あ?」
「…この先こいつが苦しむのが分かってて、黙って渡せるわけがねぇだろ!」


あ、また悲しそうに笑った。
やだな。もうそんな顔は見ていたくないな。私は私を救ってくれたその笑顔を忘れてしまいたくなんてないのに。

でもね、その笑顔を見てひとつだけ確信したよ。

やっぱり世界なんて残酷だ。


「は…、こいつが苦しむ?だから何だ」
「高杉…?てめぇ何言って…」
「どうでもいいんだよ、そんなこと」


それでも、晋助と手を繋いで生きてきたのはこの世界なんだと。そう思うだけで私はこの世界をたまらなく愛おしいと感じることができるから。

だからきっと、もう私はあんたの傍にはいられない。そうでしょ?


とりあげられた


ほら、やっぱり世界は残酷だ。


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