刹那とまた子と武市の目の前に現れたのは長身サングラスの男。
また子と武市は顔見知りのようだが、当然刹那は初対面である。
「ふむ…そなたが刹那殿でござるか」
「え?あーと……はい、そうです。……あの、どちら様でしょうか?それにどうして私の名前……」
初めて会ったはずの男に名を呼ばれ、少々驚いた様子の刹那は思ったままの疑問を口にする。
「これは失礼した。拙者、河上万斉というものでござる。
そなたの名前はついさっき晋助に聞いたんでござるよ」
「晋助…、高杉さんですか?」
「そうでござる」
晋助と聞いても、一瞬だれのことか分からなかった刹那僅かに苦笑いを零す。
いやそんなことよりも、総督の名を呼び捨てで呼ぶ者が平の隊士であるわけがないと思い至った彼女は控えめな声色で尋ねた。
「あの、もしかしてあなたも……」
「御察しの通り、拙者も鬼兵隊幹部の一人でござる」
「やっぱり…!えと、今日から鬼兵隊でお世話になります刹那です」
「はは!先ほど晋助に聞いたと申したばかりでござる」
「うおあ!…っと、そうでしたよね、ご…ごめんなさい」
すると思わず変な声を出した刹那が赤面するのを見て、万斉は独り言のように呟いた。
「…聞いたことの無いリズムでござる」
「え?」
「優しいバラードかと思えば弾むようなロック…。聞いていて飽きない曲でござるな。面白い…」
「曲…?」
万斉の発言に困惑している刹那に気がついたのか、また子が彼女の方を向いて説明を施した。
「それ、たぶん万斉曰わく"魂のリズム"のことっス。めっちゃくちゃ胡散臭いっスよね」
「魂のリズム、かぁ…」
そう呟いた刹那の頭上で、万斉がクスリと笑う。
「ところで刹那殿、晋助が案内が終わったら部屋に来るようにと言っていたでござる」
「ど、殿?!殿なんて滅相もない!よかったら名前で呼んでくださいっ、高杉さんには私もお話があったので丁度よかったです!あ、でも部屋わかんない……」
「ならば刹那と呼ばせてもらうでござる。拙者も少し晋助に用がある故、部屋まで一緒に行かぬか?刹那」
「いいんですか?!ありがとうございます!」
「刹那、船の案内ならもうほとんど終わったからそのまま万斉と一緒に晋助さまのところに行って来ていいっスよ」
「本当?じゃあ行ってくるね!」
そう言ってまた子と武市に背を向けて万斉について行こうとした刹那だが、突然はたと立ち止まり、くるりと振り返った。
どうしたのかと首を傾げる二人の目に映ったのは彼女の満面の笑み。
「また子ちゃん、武市さん!船の案内どうもありがとう!二人のおかげですごく楽しかったよ!またあとでねっ」
そう言った刹那は二人に手を振ると、今度こそ振り返ることなく廊下の奥へと消えていった。
「…刹那、今まで会ったことがないタイプの人間っス。なんだか一緒に居て落ち着くというか、なんというか…」
「いやはや、本当に可愛らしい。猪女とは大違いですね」
「それ変態ロリコンにだけは言われたくないっス」
囀るは小鳥の唄
「して、晋助に話とは?」
「うーん、話というか…お願いですね」
「そうでござるか。…拙者、堅苦しいのは苦手故、敬語などは必要ないでござる」
「ふふ、りょーかいです。ありがとう、万斉さん!」
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