「おや?そこの可愛らしい娘さんはどこのどなたですか?猪女」
「…………刹那、気をつけるっス。こいつは武市変態といっていつ襲ってくるか分かんないロリコン野郎ッスから」
「ろ、ろりこ?」
「あなた仮にも先輩に向かってロリコン野郎とはなんですか。それにロリコンじゃないフェミニストです猪女」
「ロリコン」
「猪女」
「ロリコン!」
「猪女!」
ここに来てからというもの初めて聞く単語ばかりが頭の上を飛び交い、頭に疑問符を浮かべっぱなしの刹那はさて置き、二人の言い合いは更に続く。
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「はぁ、はぁ、まあとにかく……。その娘さんが高杉さんが直々に選んだ新しい幹部というわけですね」
「よ、よろしくお願いします?」
「はぁ、はぁ、そーゆうことッス……。あれ?先輩あんま驚かないんッスね。てかなんで刹那は疑問形なんっスか」
「私、幹部になるつもりは無いんだ」
「え、でも晋助さま直々の推薦だからそう簡単には取り消せないっスよ。多分」
「え、うそ」
「ちなみに私はとても驚いてますよ?ほら、この顔を見たらそれくらい分かるでしょう?」
「分かんないッス。普段の顔と1ミクロンも変化がなくてむしろ不気味ッス」
「本当に貴方はいつも一言多いですね」
「先輩の顔が不気味なのは事実でしょ」
「えっ、と!また子ちゃん!武市変態さんはここの隊士さんなの?」
また先程のような言い争いが起きる前に止めなければと、刹那は無理やり話題を変えるべく、また子にそう尋ねた。
「あ、そういえば紹介が遅れましたね。私の名は武市変平太と申します。鬼兵隊では参謀として動いておりまして、いわゆる戦闘要員ではありません。あと断じて武市変態という名前ではありませんからね。さっき猪女が言ったことはすべて忘れて下さい」
「わかりました!参謀っていうことは武市さんは頭がいいんですね」
そう言って尊敬の眼差しを武市に向ける刹那を見て、来島が口を挟む。
「刹那、騙されちゃ駄目っス。こいつはただのロリコンっスから。まあこんなやつでも幹部の一人なんスけど…」
「っええええ?!」
「あれ?言ってなかったっスか?」
「また子ちゃんそれ早く言ってほしかった!しっ、失礼なこと言って申し訳ありませんでした!」
そう言って武市に頭を下げる。
先程のまた子と武市さんのやり取りを見ていて、まさか幹部だとは思いもしなかった刹那はひたすら取り乱す。
なんせ仮にも幹部の人間に「武市変態さん」などと言ってしまったのだ。彼女が慌てるのも当然のこと。
「いやいや、頭をあげてください。それにそこの猪女も一応幹部ですがあなた達普通に接しているじゃないですか」
「?!」
それを聞いた刹那は更に顔を引きつらせて固まる。ぎこちない動作でまた子の方を見向いた彼女の目はぱちくりと見開かれていた。
「あれ?それも言ってなかったっけ?」
「いいいい言ってない!!!また子ちゃんも幹部ってこと?!」
「ま、まあ一応そうなるっスね…。あ、武市変態と違って私は戦闘員っス。刀は使えないけどコレがあるっスから」
コレと言って来島が取り出したのは二丁拳銃だった。それをくるくると回して華麗に腰のホルダーにしまったのを見て刹那が感嘆の声を漏らす。
「かっこいい…!」
「鬼平隊の幹部は今は三人っス。と一人は今船に居ないみたいっスけどあいつも相当変人っスよ。まぁ強さは認めてるんっスけどね……。まあ武市変態よりは常人に近いから心配はいらないと思うっス」
「少なくとも私、猪女よりは普通なつもりなんでそこは忘れないで下さいね」
「くたばれっス変態ロリコン」
「あはは、二人共仲良しさんだね!」
「「これのどこが(ですか)?!」」
「ほら、喧嘩するほど仲が…」
「「よくない!」」
「…にしては息ぴったりだけどなぁ」
愉快にけたたましく
(あと一人ってどんな人なんだろ……)
また口喧嘩を始めた二人を見ながらそう考えていると、突然背後に感じる気配。
振り返ると背中に三味線を担いでグラサンをかけている長身の男が立っていた。
「何でござるかこの騒ぎは…」
「「万斉(さん・先輩)!」」
「?」
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