「う…ぇ」

「刹那、大丈夫でござるか?」

「………、はい…」

「…どうして先に言わなかった」

「へへ、ごめんなさい…」

「………天人が苦手ならば拙者から晋助にそう伝えたというのに…」

「や、初めての仕事だから、がんばりたいし…。成功、させたいです」

「その志には感服するが…それにも限度があるでござろう」

近くに居るだけで吐き気を催すなんてよっぽどだ、と叱りながらも刹那の背をさする万斉に彼女はへらりと笑う。

「次からはちゃんと言います」

「頼むぞ、……では行くが、本当に大丈夫でござるな?」

「…はい、」

彼ら二人が立っているこの場所はとある組織の船内である。

その組織、名を宇宙海賊春雨。

今回交渉のため、万斉と刹那はここに来ているのだが、着いたとたんに顔色を悪くした刹那に万斉が気づいたことから冒頭に至る。

言わずともがな、刹那は天人が大の苦手であった。

そして今彼らの目の前にある扉、これが開けばあたりは天人ばかりの世界だ。

「もし無理なようだったらすぐに言うでござるよ」

「ありがとう、たぶん大丈夫…です」

「そうか…。では、」

その言葉のあと、扉が開かれる。
徐々に広がっていく光景に刹那は一瞬眩暈を覚えた。
どこを見てもその目に映るのは、天人、天人、天人。

思わず後ずさりそうになるのを堪え、何食わぬ顔をして万斉の隣を歩く刹那。
身体に刺さる視線にも無視を決め込む。

そんな中、彼女の気を紛らわそうとしているのか、万斉が刹那に小さく話しかけた。

「刹那、お主いつから天人が苦手なんでござるか?」

「…天人って存在を知った時からです。私から大切なものを奪っていくのは、いつもあいつらだったから」

「………怖いんでござるか?」

「怖いです……、でも、天人が怖いんじゃなくて……」

「?」

「私が私自身を見失ってしまいそうで、…怖いんです」

「!、…そうか」

自身を見失う、つまり先日万斉と刀を合わせた時の状態になるということだ。
刹那が自身を見失った時、彼女の中に眠る殺人本能が目を覚ます。

「本当は今でも…、ここに居る奴ら全員、殺したくてたまらない」

そう言って冷や汗を額に浮かべる刹那を見て、万斉は言葉を失う。これほどまでにこの少女の憎しみをかき立てる存在を生んだ、少女が探し求めている者とは一体どんな人物なのかを考えずにはいられなかった。

しかし彼が刹那に言葉を返す前に、別の声が二人の耳に届く。

「いやはや鬼兵隊の方々…よくぞお越しくださいました。どうぞこちらへ」

突然目の前に現れた男に悠々と部屋へと案内され、言われるがままに足を進める万斉と刹那。

部屋に入ると数人の天人が既に椅子について刹那たちの方をじとりと眺めていた。

気味の悪い笑みを浮かべる天人に、刹那の背筋に冷たい汗が伝う。

「さて、そちらの話を聞きましょうか」

一人の天人の声に即座に応えたのは万斉だった。

「お初お目にかかる。拙者、河上万斉という者でごる。こちらは同じく鬼兵隊の幹部、刹那と申す者。
今回我ら鬼兵隊は宇宙海賊団春雨とある協定を結びたいとの考えで参った次第でござる」

「ほう、鬼兵隊とな…、それで?ある協定とは具体的にどのようなものでしょう。説明してもらっても宜しいかな?」

「御意、つまりは……」

そうして万斉が話を進めていく中、刹那はひたすら目をつむり、下を向いて、まわりの景色を遮断していた。
するとその姿に気づいた天人の一人が刹那に声をかける。

「そちらの方、どこか具合の悪いところでもあるのですかな?顔色が良くないようだが……」

「………、いえ…何でもありません」

「しかし……「お知らせします!!」

その時、刹那に話しかけてきた天人の声を、部屋に駆け込んできた別の天人の声が遮った。

「鬼兵隊から連絡です!至急救援を要請しておりますようで…、しかも…!」

「例の騒動の主犯、桂小太郎と銀髪の侍の首をさしだすとのことです!!」

淑やかなる

そして舞台は地球へ移る。
役者ははたして誰なのか、



 
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