「刹那ーっどこっすかァー?」

「久しぶりだね、また子ちゃん」

「ああっやっと見つけたっス!」

駆け寄ってくる来島の姿を見るのは久しぶりで、やっと仕事から帰ってきたのだろう、僅かに疲れが残るその姿に刹那は緩やかな苦笑を浮かべて近づいた。

「何かあったの?」

「いや、やっと一仕事終わったから一緒にお茶でも…」

「お茶?」

「う…、やっぱ何でも無いっスうう!」

これまで鬼兵隊内に女子が一人も居なかったため、このような誘いをすること自体慣れていないのか、来島は言葉の途中で顔を真っ赤にして踵を返そうとする。

しかし不意に顔を上げた来島の目にうつったのはきょとんとした刹那の顔。しかしすぐに彼女の言いたいことを理解したのか、その顔もすぐにぱっと輝いた。

「また子ちゃん一緒にお茶しよ!」

「え!でも…いいんスか?」

「当たり前だよ!それに遠慮なんてまた子ちゃんらしくない」

そしてその言葉を聞いた来島もすぐにはにかむようにして笑い、刹那の手をひいて自分の部屋へと向かっていく。

しばらくして鬼兵隊内の一室から聞こえてきたのは普段の船内では考えられない、女子同士が談笑する声だった。


「……へぇ、今回の仕事場って京だったんだね。大丈夫だった?」

「もちろんばっちりっス!けどまたつまんない仕事だったんっスよね」

「つまんない仕事?」

「そうッス。私、話し合いとか取引とか苦手ッスから」

「そっかー。私も多分苦手だな」

「それは困ったでござるな」

「うーん…って、え?!」

「なんっで万斉先輩がここに居るんッスかあああああ!」

「刹那の声が聞こえたゆえ。して刹那、町で騒がれてる指名手配犯とはお主でござるか?」

「へ…、何で分かったんですか?も、もしかしてエスパー?!」

「なわけないでござる。部屋の前にこれが落ちていた」

「あ、お面……」

「気をつけるでござるよ。街中で落としでもしたら大変な騒ぎになる」

「わわ、ごめんなさい…!」

万斉から面を受け取ると急いで謝る刹那。万斉はそれに微笑み、制そうとする。が、それよりも早く万斉の頬に来島の拳が叩きこまれた。
派手な音を立てて畳に身体を打ちつけた万斉は沈黙する。

そんな彼を見てたらりと冷や汗を流したのは刹那だった。

「勝手に女の子の部屋に上がりこむとはどんな神経してるんスか先輩」

「言葉と行動の順番が逆だよまた子ちゃんんん!大丈夫ですか万斉さん!」

「ん?あぁ心配しなくても大丈夫ッスよ刹那。このくらいしとかないと懲りないヤツだから。私も先輩に手をあげるなんて心が痛むッスけど先輩の今後のためにもここはしっかりと……」

「心痛んでるわりには拳に一切迷いなかったよね?!いっそ清々しいぐらいフルスイングだったよね?!」

「いきなり酷いでござるまた子殿…。刹那、拙者は大丈夫でござるよ」

「ほら、問題なかったッス。……チッ」

「あれ何か今舌打ちみたいなのが聞こえた気が……」

「気のせいッス」

「………、まあそれはともかく刹那。お主に仕事でござるよ」

「え…、私に、ですか?」

万斉の言葉を聞き、きょとんと目を丸くする刹那。
それもそのはず。

刹那は鬼兵隊に入隊してから、まだ一度たりとして仕事を命じられたことがなかったのだから。

「晋助直々のご指名でござる」

「本当ですか!」

初めての仕事と聞き、僅かに胸につのる緊張感。しかしそれ以上に高まる高揚感が刹那の胸中を占領する。

「それで仕事内容は何ですか?」

「拙者と共に宇宙海賊春雨のもとへ向かい、協定を結ぶまでに話をこぎつけるのが今回の仕事でござる」

「ああ、だからさっき刹那が話し合いが苦手って言った時に先輩、困ったって言ってたんッスか」

「いかにも」

「宇宙海賊、春雨…?」

「刹那、春雨を知らないんスか?」

「うん、初めて聞いた」

「簡単にいえば宇宙を股に掛けて悪事を働いている、天人の集団でござる」

「……、天人……?」

天人と聞いたとたん、表情を一変させる刹那。ついさっきまでの笑顔は凍りついたように固まった。

そんな彼女の様子に気づいた万斉は初めての仕事に不安を抱いていると勘違いしたのか、彼女の肩に手をおき、安心させるように言う。

「心配要りもうさん。拙者も同行するでござるよ、刹那」

「先輩の言うとおりッスよ!話し合いなんて適当にしてれば何とかやるッス!」

「………」

「?、刹那?」

「……え、あ。…そ、そうだねっ!ありがとう万斉さん、また子ちゃん」

突然はっとした様子の刹那は無理やりに笑顔を繕う。しかしその不自然な笑顔に気づいた者も、刹那が身を震わした真意を知る者も、誰一人としてそこには居なかった。

廻る界の一片

すべての始まりか否か。



 
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