一方その頃のかぶき町、万事屋で働く面々は何ら変わりなく、それぞれにいつもの生活を送っていた。
そして神楽と新八は定春の散歩。銀時は暇を持て余し、ソファーの上でジャンプを読んでいた時のこと。
万事屋の玄関の戸がガラリと開き、いつものように桂が上がり込んできた。最近日常的になっているその光景に特に気を配るでもなく、銀時はそれを無視してジャンプに読みふける。
「ごめんください銀時くんいますか?」
「銀時くんなら今留守なので帰って下さいさようなら」
「おお銀時!なんだちゃんと居るじゃないか」
「るっせーよ馬鹿、大体ごめんくださいってのは玄関の前で言うもんだろうが!居間まで上がりこんでそれ言うやつ見たことねーよ」
「少し話があるのだ」
「おーい無視ですか?」
「…高杉のことについてだ」
桂の口から高杉という名が出たとたん、銀時のジャンプをめくる手がぴたりと止まり、視線も桂へと向けられる。
「なんだよ…いきなり」
「お前、このまえの祭りの時に高杉と会っただろう」
「…あぁ。その様子じゃてめぇも会ってたみてえだな。
……で、それがどうした?」
「その時、高杉のそばに女子を見なかったか」
「女ァ?いや、ヤツ一人だったぜ?」
「そうか…。ならば銀時、今巷で騒がれている指名手配犯を知っているか?」
「指名手配犯、ってあれか。狐の面の」
「そうだ。あれは高杉の仲間らしい」
「………ヘェ、でもやっぱり俺にゃあ関係ねえ話じゃねえか」
そう言った銀時の視線は再びジャンプへと戻ってしまう。
ただ二人を取り巻く雰囲気がいつもと少し違うのは、昔の友がもう一人の昔の友の名を口にしたからなのだろうか。
しばしの沈黙がつづいたが、それはすぐさま桂のつぶやきによって絶たれた。
「あの娘、どこか見覚えがあるのだ…」
「あ?どこぞの攘夷浪士じゃねえの?」
「いや…それは違うと思う。何かもっと昔の……、攘夷戦争のころだろうか」
「それはねぇだろ。あの頃は女の知り合いなんて作ってる暇なんざ無かったじゃねえか」
「うーむ…それもそうだな」
「……つかその子の名前は何てーの?」
「知らん」
「……」
「……」
「………………って、んなドぎっぱり言ってんじゃねーよ!
つうか名前もわかんねーって何?!
そんなんも分かんねえのに会ったことある気がするとか、それただの人違いだっつーの!馬鹿ですかおまえは!」
「馬鹿じゃない桂だ!
だが確かに人違いかもしれんな。お前の言うとおり当時の戦時中に女の知り合いなど居るはずが……あ、」
「ん、なに?もしかして居たの」
「居たじゃないか一人。
……ただ俺にではないぞ、お前にだ」
「は、俺?」
桂の言葉にぽかんと目を開く銀時。だがすぐにある人物のことを桂が言っているのだということに気がつき、あぁと小さく声を漏らす。
「ありゃ知り合いなんてもんじゃねーよ。もっとなんか…特別だ」
「話でしか聞いたことはないが、たしか彼女はおまえの命の恩人らしいじゃないか。今はどうしておるのだ?」
「分かんねえ。戦時中離ればなれになっちまってからはどこに居るのかさえ分かんなくなっちまったからな」
「そうか……、生き延びていれていればいいのだがな」
「あぁ、また会ってちゃんとあの時の礼を言いてぇ」
「そういえば昔お前からよくその少女の話は聞いていたが名前は聞いたことがなかったな。何というのだ?」
「あ?言ったことなかったっけな?あいつの名前は────…」
世界とはなんと小さく狭い物だろう。
そこで出会った人間が自分の知らないところでまた別の知り合いと関わりがあったりすることは日常茶飯事で、大して珍しいことでも何でもない。人と人との繋がりは単純なものではなく。複雑にそれぞれが交じり合い交差しているのだ。そしてその繋がりというものは、
「刹那ってんだ」
時に人々を悲しみの連鎖へと導く。
枯れたセピア
‐第一章 了‐
101223 加筆修正