日は沈み、あたりは闇に包まれつつある。しかし人混みは静まるわけでもなく、むしろ賑わいは増す一方。
そんな今宵は江戸の開国二十周年を祝う祭りの日だ。
刹那が高杉に指定された通り、日が落ちる頃に再び橋の上へと訪れると、そこには既に高杉が居た。
ささのせいで表情は見えないが、わずかに見える口元が弧を描いているのを見た限り、大層機嫌がいいらしい。高杉は刹那の姿を確かめると、そのまま踵を返して歩き出した。それに駆け寄りながら刹那が口を開く。
「遅くなってしまってすみません」
「何かしこまってやがる。今日は祭りだぜェ?気楽にいこーや」
「あはは、そんなことしたらまた子ちゃんにどやされちゃいますよ私」
「ククッ、そりゃあ始めの頃だけだ。あいつももう何も言うめーよ」
「そうですかね…。…あ、ところでこれから何があるんですか?面白いものって何なんですか?」
「そりゃあ見てからのお楽しみだ」
そう言ってくつくつと笑う高杉に刹那は首を傾ける。そうしている内にもせよ二人はどんどん足を進め、さらに人通りの多い祭り会場の中心を目指す。その間高杉が笑みを絶やすことはなかった。
一方そのころ、同じようにして祭りに来ているものたちが居た。
「銀ちゃーん早くー!」
「ったく、まだまだ神楽もガキだな。ちったあ落ち着きやがれ」
「それ両手に綿あめ持ってりんご飴くわえてる人が言うセリフじゃありませんけど」
「いーじゃねえか、今日は祭りだ。お前らもまだまだ若ぇんだから祭りでははしゃいでりゃいいんだよ」
「ちょ、言ってること滅茶苦茶なんですけどこの人…」
そこに居るのは万事屋一行と平賀源外。
源外はからくりを披露するという仕事のため、万事屋一行は単純に祭りを楽しむため、共に会場へと訪れていた。
「……じゃあ俺ぁもう行くからな。あとはてきとーに楽しんでくれや」
「ありがとうございます源外さん!」
「あぁ……じゃあな」
「……」
どこか暗い顔をして立ち去る源外を黙って見送る銀時。それに気がついたのは新八は声をかける。
「どうしたんですか?銀さん。そんな怖い顔して……」
「…なんでもねぇよ。ほら、おまえらもせっかくなんだから遊んでこい。俺の綿あめやるから」
「銀さんが甘味を他人に渡すなんてなんか不気味ですね…、けどありがとうございます!行こう、神楽ちゃん!」
「おぉよ、ぱっつぁん!」
そう言って駆けてゆく子どもたち二人の背中をほどけた笑顔で見つめる。やはりまだまだ子供なんだな、と銀時が思った瞬間だった。
「やっぱり祭りは派手じゃねぇとなあ」
同時刻、祭りで賑わう人混みの中、少女刹那は一人ふらふらとまるでさ迷うかのように歩いていた。
「これはどっちに行けばいーの…?」
眉間に皺を寄せる刹那に先程まで共に行動していた高杉が、別れ際に告げた言葉はこうだ。
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「刹那、よく聞け。今からおもしれぇ見せもんが始まる。合図は花火だ」
「花火…ですか」
「あァ、だが俺ァちょいと話してえヤツが居てな。こっからは別行動にする」
「もしかしてコレですか」
「……とりあえず小指立てんの止めろ。ちげぇーよ、…おめぇ同様、獣みてぇなヤツだ。まぁとうの昔に牙なんてもんは無くしちまったみてぇだがな」
「あー……なんか読めました。よーするにアレですね、それを邪魔するやつを止めろというわけですね」
「ククッたいした洞察力だ」
「お褒めに預かり光栄ですーう…ちぇ、結局それ楽しいのは高杉さんだけじゃないですかー」
「クク、そう拗ねるな。それにヤツと会うのはおまけみてぇなもんよ」
「あ、そうなんですか」
「あァ…、つーことであとは任せる」
「はい、……ってええ?!任せるって何をですか、ってもう居ねえ!」
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「高杉さん…無茶苦茶ですよー。おかげで私迷子じゃないですか、万斉さんー、また子ちゃんー、武市さんー誰でもいいからヘルプミ…」
ドォォォン!
そんな刹那の声をかき消した音源を彼女が目で辿れば、そこには夜空に咲き誇った美しい花火。
「……あーあ…、」
そしてその瞬間、美しい夜空とは不釣り合いな煙幕が祭り会場にぶちまかれた。
「ここからがお祭り、ってわけだ」
闇夜に花咲く頃
始まったもう一つの祭りの主催者は、喉を鳴らして笑った。
101222 加筆修正