そうして刹那が鬼兵隊に加入した日から数週間がたった。

幸い万斉の傷はあまり深くはなく、今では傷も癒えて、刹那も普通に船を歩き回るようになっていた。

他の隊士たちも万斉と刹那の手合いを見た結果、彼女の加入に反論はなかったのだろう、船ですれ違うたびに皆刹那に向かって挨拶をする姿がよく見られた。

幹部についての話は流れたようだったが、刹那はもうそれについては高杉の一言に従おうと考えを決めていた。

なぜならば強く断る理由も今となっては無いも同然であったし、何より高杉の命令はできる限りすべてを聞き入れると決めたからだ。

「それにしてもなあ…」

(なんとゆうか、ね。うん。いやいいことなんだよ?すっごいいいことなんだってわかってる。だけどさ、)

「……暇すぎる」

今まで同じ場所に居続けることもなければ、安全というものからもかけ離れた生活を彼女が送っていたせいか、どうにも落ち着かない様子の今日この頃。

刹那からしてみればずっと憧れていた日々だというのに、実際はコレだ。

戦いたいというわけではない。
ただ自分は何もしなくていいのだろうか、とか、もっと役にたちたい、とか、とにかく色々と考えてしまう彼女は船の看板から空を見上げる。

「また子ちゃんは仕事で居ないし、万斉さんは表の仕事だとかで忙しそうだし、武市さん…は二人っきりで会っちゃ駄目だってまた子ちゃんに言われてるし…」

そうすればやはり残るはただひとり、

「…いやそれはない。ないないない」

(高杉さんに暇だなんて言えるわけがない!てゆうか今船に乗っているのかも定かではないというのに…)

空に向かって大きなため息をついた刹那はそのままぼんやりと雲を眺めた。それに飽きればまたもや視線をずらし、暇つぶしになるようなものを探す。

「んんー…、あっ!」

そうして次に彼女の目に入ったのは空高くそびえ立つターミナルと呼ばれる建物だった。しばらくそれを眺めていた彼女は突然声を上げて立ち上がった。


「そういえば私、まだ江戸に来たばっかりで、町中なんてほとんど見たことないんだよね」

鬼兵隊としてまだ顔も知られてはいないし、町を歩くなんて暇つぶしにはもってこいではないか。
そう思い至った刹那は、思わずにやりと口角を上げた。

「…ちょっぴり船降りるくらい、わざわざ報告するようなことでも無いよね…、よし!」


腰の刀を撫でて、ちゃんとそこにあるのを確認する。癖になっているその行動に彼女は少しだけ苦笑いをこぼし、足早に船を降りた。










「ここが、江戸の街……かぶき町かあ」

船を降りて適当に歩いているうちにだんだんと人通りが増えてゆき、気がつけば大通りへと出ていたらしい刹那。
彼女も今までにもたくさんの村を見てきたが、それらとは比べものにならないほど江戸の街は大きく、思わず感嘆の声が漏れる。

「すごい……人がいっぱい…!」

目を輝かせながら、なおも足を進めていると、ふいに目に入った派手な着流し。

まさかとは思いながらも刹那はその人物をよく見てみる。ささを深く被っているせいで顔はよく見えないが、あの目立つ着物…間違いない。我らが鬼兵隊の総督、高杉晋助だ。

「どうしてこんなところに…?」

ひとりで橋の上に立っているのかと思ったが、目を凝らして見てみると高杉の足元には、坊主の格好をしてささを被り、座りこんでいる誰かがいた。
その人物と話をしているようだ。

刹那はとっさに一声かけた方がよいのだろうかと考えたが、特にその理由もないことに気づき、立ち去ることにする。
しかし踵を返してからすぐに背中からかけられた声に彼女の足は止められた。

「オイ」

「っ…!た、高杉さん…」

予想外にかけられた声は高杉のもの。いつの間にここまで来たのか、橋の方を見るともうそこには誰もいなかった。

「こんな所で何してやがる」

「え、いや特になにも……。ただ船があまりにも退屈だったんで暇つぶしに」

「くく、暇つぶしねェ…、刹那、暇なら今から付き合えや」

「仕事ですかっ?!」

「嬉しそうな所残念だが違げぇよ。今日は祭りだ、どうせならおめえにも面白ぇもん見せてやろうと思ってよォ…どうだ?来るか?」

いまの彼女には行くところも無ければ、これからの予定も無い。それに面白いもの、とやらにも興味がある。
刹那はすぐさま首を縦に振った。

「そー言うと思ったぜェ。俺は少し用があるから、夜になったらあの橋の上で落ち合おう。………祭りはそれからだ。クク…」

迫る夜う君

祭り客の夜は面白おかしく。
それが鉄則だろう?
俺が最高の祭りにしてやらァ。


101222 加筆修正



 
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