「ちょっと、毛布とらないで寒い!」
「だってよー…、これすげえ邪魔」
「邪魔じゃない!返せわたしの!」
「寒くねえだろー。ほら銀さんが暖めてやるから」
「いやー!キモい!触るな!」
「?!」
「あれ、毛布どこいった」
「…………」
「ぜんっぜん見えん…、…銀時?」
「…………」
「…銀時さーん、うそだよーごめんよー泣かないでーほら、ぎゅー」
「……だれが泣くか!」
「いたたたた!ちょ、あんた力強すぎ!」


くらいくらい、互いの顔も見えない暗闇の床。
繋いだ手はあたたかくて、意味もなく安心してみたり。分からないほど小さく手が震えたときですら、ぎゅっと握りかえしてくれる貴方に歓喜してみたり。

あつい吐息が額にかかる。目を瞑ればより一層鮮明に、銀色がきらきら視界をよこぎった。


「おお」
「え、なに」
「いや、きれえだなあと思って」
「…いやいやいやなんも見えないだろ」
「そんなことないよー。ほらもじゃもじゃしたのがここに」
「あだだだだだだ!ちょ、おま、適当に引っ張ってるだけだろうが!ハゲる!」
「あはははは」


くらいくらい。あたたかなこの場所で笑ってられるわたしは、なんだかとても不思議に思うよ。
だってわたしたち、いつの間にかまるで普通の人たちみたいになってるんだもん。
これはきっと幸せっていうものなんじゃないかな。
よく分かんないけど、たぶん。


「なあ、お前っていましあわせ?」
「!、…うんたぶん」
「………」
「なんだよ無視かよー」
「…いや、まさか即答するとか」
「でもどうしてそんなこと聞くの?」
「…わっかんね」
「そっか。じゃあ銀時は?しあわせ?」


唐突だなあとも思ったけど、それ以上に同じようなことを考えていたということに驚いた。
いつもより真剣なその声にも。

だからなんとなく聞き返してやった。このひともわたしも、暗やみにまぎれてしか吐き出せないから。
さっきわたしがすぐに答えられたのもここがこんなに暗いから、あの赤色の瞳が見えないからに違いない。

返ってくる彼の答えなんて、大方の予想はついているけれど。


「俺はわかんねーなあ」
「…言っとくけど。こーゆうことしてる時に私以外のひとに今の聞かれたときは嘘でも幸せーとか言っときなさいよ」
「んな状況生涯こねえから安心しろ」
「どーだか」
「信用ねえなオイ」
「あは」
「…いっこ聞いていい」
「いくらでもどうぞ」
「幸せってどうゆうの」


いま顔が見えなくてよかったと心底おもう。わたしはきっと今死ぬほど情けない顔をしてるから。鼻がつんとしたから、たぶん絶対、そうだ。

それに銀時だって、いつもなら絶対こんなこと言わない。こいつはなかなかひとに本音を見せないから。だからこんなのは貴重なんだ。
子供のころからそういう所だけは頑なに変わらないんだから、どうしようもないけど。
それでも私はそれが痛くてたまらない。


「幸せとか、簡単だよ」
「そうなのか」
「ここに銀時がいるでしょー」
「…いる、けど」
「うん、よかった。それだけわかれば私はもう大丈夫だ」
「…なに言ってんのかわかんねえ」
「私にとっての幸せってそーゆうことってはなし」


そう言えば、銀時はすこし黙ったあとくつくつ笑い出した。いつもならどついてやるけど今日はそんなふうには思わない。
それどころか私まで頬が緩んでしまうなんて、私はおかしくなっちゃったのかな。


「……今日はなんか、」
「んー?」
「伊織が、伊織じゃねえみてえだな」
「そう?かわいい?」
「…前言撤回」
「なんだよくるくるぱー。あとそれ言うならあんたも一緒なんだからな」
「わかってるっつのあほ」


銀ちゃんと抱き合って、笑って、ひとつになって、朝起きたらまた笑って。
そんな毎日を幸せだと思える程度には私、女の子だったみたいだよ。

わたし今、すごく幸せだよ。


「…って私ほんとに変になっちゃったのかも」
「いまさらだろ。…つうかそろそろこっちに集中してくんない?俺の息子さんがもう限界みてえなんだけ、っぶふあ!」
「ばかあほ変態糖尿病天パ変態」
「おいいま変態って二回言ったぞ」
「大切なことなので二回言いました」


こんな可愛くない私を、どうか笑わないでね。
うそ、どうかいつも笑っていてね。

いまの私の精一杯はこの程度だけど。
それでもこれが、私の全部なんだ。

いつかあんたが心から幸せだって言える時を、わたしはずっと待つから。
こうやって少しずつ前を向きながら、わたしたち、これからも生きていこうよ。


back

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -