だいたい私がどうしてこんなとこで刀を振り回しているのかというと、なんでだとおもう?武家の生まれでも極道でもないこの私が。

クニのことはよく分からないし、正直あまり興味もない。私にとってのクニはわたしのまわりを取り巻くいろいろなもので構成されているものであって、何十年もの歴史を紡いできた将軍家とか、名高い政治家はその中には入っていない。

けれど私が護ろうとしているのはたしかにクニだ。わたしのクニだ。それは確かに間違っていないはず。


「ちくしょ…、痛い」


ではどうして私はこんなところでぼうっと空を見上げているのか。
ずきずきというリズムに合わせて私の体力と根性を奪うのはくそったれ天人につけられた刀傷だ。
わたしはあいつらが嫌い。
だってあいつらはわたしのクニを削り取っていくから。


「なにやってんだお前…」


空から目をそらしてみるとそこにいたのは晋助だった。服のところどころに返り血を散らしているけど、見たところ元気そうで。すこおしだけほっとした。無事でよかった、なんて言わないけど。


「おお…!待ってたよ晋助」
「じゃあな」
「ちょおおお!なに動けない女の子ひとり残してどっか行こうとしてんの!」
「…動けねえのか」
「恥ずかしながら」
「お前こんなとこで生活する気かよ。悪趣味なやつだな」
「あんたにはつれて帰るって選択肢はないわけ?」
「ざけんな、俺だって怪我してんだっつうの。自分で歩くので手一杯だ」
「へえ、じゃあそんな体引きずってまでわたしを迎えに来てくれたわけだ。さっすが晋助、おとこま「じゃあな」ごめんんんん!しんすけごめ、っ…!」


すこし大きな声を出しただけってゆうのに、ずきずきしていた傷口が一段と疼いた。思わず息をつまらせてしまう。
それに気づいたのか晋助がはっとした顔をしてしゃがみこむものだから、柄にもなくすこしときめいた。


「…なんだよう、心配そーな顔すんなよう。惚れちゃったらどうすんだ」
「黙れ。喋んな」
「……、ぶー」
「…おら、背中乗れ」
「えええ、どうせならお姫様抱っこがいいんだけどなあ」
「途中で叩き落としちまうかもしれねえがそれでもいいならやってやる」
「おんぶでお願いします」
「ちっ」
「おいこら落とす気まんまんか」
「だからあんま喋んな。傷に響くだろ」
「…………」


なんなんだこいつ。憎たらしいやら優しいやら、だから反応に困るんだ。

そろりそろりと手を動かして晋助の肩に手をかける。少し体に力を入れただけで痛みが全身を駆けめぐった。背中に乗るだけでも一苦労なんて、我ながらなんて情けない。

やっとのことでおぶさった時には肩で息をしていた私。晋助が口をひらく。


「おい、耳元でハアハアうるせーよ。発情期か」
「あ、んた…よくんなこと…言えんね」
「死にかけてんじゃねーよ」
「うっ…さい、なあ…、っ」


晋助が歩き出す。背中が揺れるたびに響く痛みに唇を噛み締めて耐えた。
大丈夫だ、まだ大丈夫。まだ痛いって感じてるうちは生きていられるから。


「おい、まだ寝るなよ。意地でも意識たもってろ」
「…い…ぅ…っわかって、る」
「たく…、いてえし重てえしうるせーし最悪だ」
「重い、とか…ゆーな、ぼけ」
「くく…、存外元気じゃねーか」


紫煙と石鹸のいいにおい。晋助のにおいがする。閉じていた目をうっすらと開いてみた。目のまえにある彼の髪の毛、血を浴びてないのかな、なんでこんなにさらさらなんだ。


「……さらさら…いーにおい…」
「あ?」
「…………」
「寝るな、落とすぞ」
「ねてない」
「…よし」


どうしてわたしは痛みを抱えながらそれでも刀を握るのか。

クニのことはよく分からないし、正直あまり興味もない。私にとってのクニはわたしのまわりを取り巻くいろいろなもので構成されているものであって、何十年もの歴史を紡いできた将軍家とか、名高い政治家はその中には入っていない。

私のクニを構築するのは今目の前にいるこの男だ。銀髪を靡かせ夜叉と呼ばれる男だ。堅物だが賢く優しい男だ。太陽のように笑う男だ。そのまわりを取り巻き、わらいあう、仲間たちだ。護りたいから。たったひとつ、たったそれだけ。


「し…すけ、 ありがと」
「…らしくねえじゃねえか」
「……ふふ、」
「帰ったら酒奢れよ」
「お酌、してあげる…よ」
「そりゃあ楽しみだ」


一度すべてに絶望したわたしが今笑っていられるのはきっと間違いなく君たちのおかげだから。
だから君たちが笑ってくれるなら、わたしは何度だって戦場を駆けるよ。

痛みが薄らいできて、呼吸がらくになってきた。さっきまで苦しかったのが嘘みたい。まぶたが重たい。
畜生、そう思った。


「伊織…?」


だからさあ。私がもっと強かったらなあ、なんて、思ってしまうわけですよ。
夢を見てしまうわけですよ。

月でも見ながら晋助と二人でお酒飲んで、いい気分を味わいながらきれいだねえ、楽しいねえって笑いあったりして。
銀時や辰馬が釣られてやってきて馬鹿さわぎ。それを見かねた小太郎が止めに入ったりしてさ。

あれ、思い描くわたしの幸せな夢なんてこんなものなんだなあ。


さよならユートピア


嗚呼でも、こんな素敵なものなんだな。


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